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2024/05/12 (Sun)
ファランクス(改訂版)

タイトル:『六号街道制空戦<六・六> (VI)』

「一瞬速度を落とした彼女は残存部隊から孤立する」

キーワード:小説 Kanon Air ファランクス第一章改訂版 偽りの月版と展開が少し違います SS 独自世界観 ファンタジー あっさりドッグファイト 話数分割 書けた分だけアップ 航空戦終盤


※執筆時に城山三郎「死の誘導機」を読んでいたので所々似た表現を使っています。


修正履歴
H23.11.29 初掲載


ファランクス

-首都防衛戦-

9. 六号街道制空戦<六・六> (VI)




竜による対空砲火は熾烈であった。
赤い花火のような弾幕の中を無我夢中で突っ込み、這い上がり、切り刻まれる。
恐怖を感ずるより、焦りの方が強かった。
『貫』部隊が敵中突破による退却に移った同時刻、『電』部隊は壊乱に追い込まれていた。
再突入時の侵入経路を予測され、進路上に高密度の炎弾や魔力弾による飽和攻撃を受けた。
攻撃の威力を高めるため、一列縦隊を採用したのが裏目に出た形である。
被害の多くは高密度の炎弾が、一帯の酸素を奪ったことによる窒息死である。
仲間が落ちていく。
まだ若いアリシアが我を忘れるには十分すぎる光景だった。
アリシアのミスは、報復に出るため、敵中で急激な進路変更を行ったことだ。
一瞬速度を落とした彼女は残存部隊から孤立する。
そこに百戦錬磨の傭兵部隊『スパルタクス』が殺到した。
一番乗りはラリー・フォルク。
他の傭兵が増速を試みる彼女の進路を塞ぎ、戦闘領域を限定する。
ラリーは、彼女に対してかけた言葉はただ一言。

「惜しいな」

お互いに背後を取るべく小さな半径で回る。
ラリー側に旋回半径に分があったのか、3度回転したときには彼の姿はアリシアの前から消えていた。

嘘!

そう思ったとき彼女は背後から強烈な衝撃が加わるのを感じ取った。
被弾し、ひるんだ所に他の傭兵が魔力弾を集中して放つ。
たった一人の航空魔導師には過剰といえる弾丸が彼女の体を何度も貫いた。
瞬く間に彼女は力を失い落ちていった。


+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×


自然落下する中、アリシアは致死量に至る出血をしながらも、いまだ意識を保っていた。
とにかく寒かった。
自分が死ぬのかという意識は薄かった。
ただ、もう家に帰れないな、とさびしい気持ちになった。
家族の中で最初に逝くのが自分だと思うと悲しい気持ちになった。
出生直前に妹のフェイトとけんかをした。
こんなことになる前に、仲直りをしておけばよかったな、と悔やまれた。

「ごめんね。フェイト。
 お姉ちゃんね。
 もう家に帰れないよ」

口に出すことはままならなかった。
肺に穴が開いているのか、のどからヒューヒュー、という音がするだけだ。
不意にマルセラの顔を思い出す。

「一度も恋をしたことがなかったな」

悔しいと思った。
普通の女の子のような生活をしたかった。
意識が雲がかったような、目の前が真っ暗になった。





+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×




筆頭格というべきアリシア・テスタロッサを失った『電』部隊の大部分は、この戦闘において『貫』部隊とともに北華航空隊の迎撃にあたったが撃退された。
オムラは爆撃に遭い、数時間のうちに到達した陸上部隊により、瞬く間に凄惨な戦闘区域に様変わりした。
北華兵が足を踏み入れようとしたオムラの地は防御陣地として機能していた。
数日の戦闘を経てオムラを守備する第三軍の幸村俊夫は六月一六日の夜、弾薬と、魔導師や術法使いを消耗し尽くしつつある状況を考慮し、オムラの放棄せよとの命令を出した。
この命令を出した後、各部隊は六号街道を後退し、首都まで騎馬で三日の位置に構築した防御陣地に向かった。
この間、『長槍』部隊や『鉄』部隊が退却する味方の頭上を守り、その戦い振りは高く評価された。
なお、残存する各航空隊は後退しながら再編された。
『貫』部隊の中で戦闘可能な者を『剣』部隊に編入させている。

いずれにせよ、『雲』部隊から派生した『電』部隊は本戦役においても珍しい高速戦闘に特化した航空隊であった。
誕生から常に第一線で戦い抜いた彼女たちは、一年半の歳月を経てその終焉を迎えたのである。





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