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2024/05/12 (Sun)
ファランクス(改訂版)

タイトル:『熱く、激しく (III) 魔女の釜』

「矢が刺さって……」

キーワード:小説 Kanon Air ファランクス第一章改訂版 偽りの月版と展開が少し違います SS 独自世界観 ファンタジー 陣地戦 陸戦 空爆



修正履歴
H24.6.23 初掲載




ファランクス

-首都防衛戦-

12. 熱く、激しく

(III)魔女の釜




部下が地下陣地に無事到着したと聞いて、岡崎直幸はほっと安堵のため息をついた。
制空権が奪われた状況で兵を輸送するという無理を強いたからだ。
運良く損害はなかった。
攻撃を梓隊が吸収してくれたおかげとはいえ、際どいタイミングだった。
というのも、月丘で数少ない生き残りの砲撃魔導師が、坑道に分岐する直前、艦砲クラスの魔導師の接近に気づいて随分慌てたとの報告も受けていたからだ。
超強大な魔力反応というやつだ。
そもそも魔導師はお互いの魔力容量や変換効率を肌で感じ取ることができる。
この特性を生かして通信や捜索に応用できるし、もちろん攻撃に利用することもできた。
実際、月丘では飛行特性を持つ者は航空隊に所属しており、飛行できなくとも、魔力量が少なくとも通信魔導師として活躍することができた。

「魔力反応感知」

「位置は?」

「直上、低高度。
 ゆっくり八の字を描いて移動しています」

白板に魔力反応の位置が描かれる。
座標が示す敵は航空魔導師か、魔導師が竜の背に乗っているかのどちらかだった。
岡崎が普段は柔和な額に皺を寄せたが、眉一つ動かさない一ノ瀬を見て、慌てるのがばからしくなった。
すで地表も空も敵の手に落ちていて、安全な場所は一つもなかった。
残っているのは坑道と地下水路だけ。
部下全員に地下水路と坑道の地図を頭にたたき込ませたが、実際に足を使って歩いてみないと分からないこともある。
地図ではわかりにくいが、起伏に富んでいて平坦な通路はほとんどない。
物見の丘の内部は、ブドウの房のような部屋に分かれていて、それぞれの部屋が複数の通路に繋がっている。
坑道を潰されると脱出できなくなるので保険をかけるためだったが、その分作りが構造が複雑になり、必要十分な強度は得られたものの、完成には至っていない。
外側は巧妙に偽装されており、すぐ側まで近づかない限り、のぞき穴には気がつかない。
さらに前回の空爆で一部えぐられて、判別が困難になっていた。
それぞれの部屋にはボウガンに簡易式の半自動装填装置が取り付けられていた。

「敵が上ってきた!」

坑道を伝って声が反響していた。

「ついに来たな」

その声を聞いて振り返った。
一ノ瀬はわずかに口の端をつり上げて、

「さあ魔女の釜を開こうか」

と、見たこともないほど残忍な顔つきに岡崎は後退りしていた。




++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



兵士は、緊張を解き放つ瞬間を待っていた。
一ノ瀬が提示した一瞬を焦がれるように待ちわびていた。
その一瞬とは、できるだけ引きつけ、抵抗はないものと思い込ませ、一斉に飽和攻撃を仕掛ける。
物見の丘はたかだか高さ三〇メートルだ。
兵士一人一人を防御システムの部品として組み込み、状況に応じて生物のように対応を変化させる。
兵士は一個の戦闘単位となり、彼らの指先がひとたび力を込めれば膨大な屍を生み出すことになるだろう、という予感があった。
だから何十回と作戦計画を読み込んだ。そして理解していた。
戦闘の口火を切るため、別の小隊がスタントラップを投擲するまで目と耳を塞ぎ、息を殺しながら身を伏せていた。

「スタン!」

耳を塞いでいたにもかかわらず、遠くであるにもかかわらず、そんな声がしたような気がした。
兵士の頭上をのぞき穴から入り込んだ轟音と閃光が駆け抜ける。
瞬間、全身に力がみなぎった。
すぐさま持ち場につきボウガンの安全装置として機能していたピンを抜き去った。
手順通りに手際よく準備を進める最中、彼の眼下をスモークボムが煙をまき散らして転がり落ちていく。
煙幕が充満する。
これでは正確な照準をつけることはできないが、最初から精密狙撃をするつもりはなかったし、彼の武器であるボウガンは自動装填機能を持っていたがため、反動が強すぎて照準がぶれてしまう。
そのため、彼に与えられた役目は矢をばらまくことにあった。
精密狙撃を実行するのは狙撃術法使いと魔導師出身の観測員の仕事だ。
そして狙撃手の出番はもう少し後だ。
兵士は何千回と繰り返した手順でボウガンに取りつき、引き金を絞った。
強い振動が手首、腕、肩へと抜ける。
歯車がかみ合い、継矢が装填される。
射手の役目は急造品故に品質に課題を抱えているボウガンの振動を外へ逃すのが主だった役目だ。
数秒を経ずして継矢が射出され、直線軌道で煙幕を突き抜けた。
地面は膨大な数の黒い矢煎に埋め尽くされている。
斜面には数十台に及ぶボウガンが配置されており、一台あたり一〇発毎分の射撃能力を持っていた。
脇には二名の装填手が継矢の入った葛に手をかけていた。
煙が晴れるまでありったけの矢を放つつもりだった。
最初に装填した矢が尽きると、射手が脇にずれ装填手の一人が矢を積み込む。
もうひとりは手動の巻き上げ機の取っ手をつかんで待機しており、矢の積み込みが終わると全身で歯車を回転させた。
回転を加えるうちに、太くしなやかな弦がはち切れそうにきしみ声を上げる。
発射可能な状態になると、装填手らが脇にずれ、再び射手が配置につく。
各ボウガンの発射タイミングはそれぞればらばらだったこと、ボウガンを横に間隔を開けて並べることで、装填中に矢を発射できる小隊もいたおかげで煙幕が晴れるまでの間、攻撃が途切れるということがなかった。
煙幕により敵方の姿が隠れたことで、ヤーマ並の膂力で放たれる矢というものがどのような効果をもたらすか即座に知ることはできなかった。
一斉射撃は時間にしておよそ15分続いた。
従来の戦闘としては恐ろしく短い時間だった。
煙幕もスモークボムを一つ使っただけなので、その頃には風に吹かれてどこかへ飛び去っていた。
そして、兵士は結果を目の当たりにした。






++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



視覚と聴覚を奪われた後、最初に感じたのは痛覚だった。

「矢が刺さって……」

黒塗りの矢が盾を貫通していた。
木盾に金属被覆を施して強度を上げていたにもかかわらず、数十本の矢がハリネズミのように刺さり、そのうち何本かが突き抜けていた。
腹に矢を受けた重装歩兵が苦痛に顔を歪めている。
視覚が回復するにつれ、彼らにとっては悪夢のような光景が繰り広げられていた。
間断なくばらまかれる矢。
すべてヤーマ並みの膂力で放たれ、狭い戦場に会戦並の物量が投入されていた。
だが斉射は止まる、牟田口は考えていた。
スモークボムを使った理由は射点を悟らせないためだろう。
射撃点はそれほど多くはないはずだ。
牟田口の考えはある程度は正しかったが、まさか物見の丘の地下全体が陣地に作り替えられ、彼が想像する以上に大量の武器弾薬が運び込まれていようとは思ってもみなかった。
それ故、戦力が過小であることを悟らせぬため、水際射撃を繰り返している程度と捉えていた。
牟田口隊は体の良い生け贄となったが、ここから生き残れば得るものは大きい。
あまりの死者の多さに『挽肉街道』と揶揄された六号街道のように、地獄のような激戦地が生み出されようとしていると、彼の勘が告げていた。
絶え間なく暴風のような射撃が続いている。
スモークボムの効果が消えるまでは耐え続けなければならないが、その前に彼らの身を守る楯が破壊し尽くされようとしていた。
身を伏せ、障害物を楯にする。
そうでもしなければ嵐に耐えるのは無理なような気がした。
スタントラップが発動してから一五分が経過した頃だろうか。
嵐が凪いだ。矢の飛来が収まっていた。
牟田口は警戒しつつ顔を上げた。
すぐそばには味方の重装歩兵はまだ楯を構えて立っていた。
だが、微動だにしない。
足下には大量の血だまりができており、全身に矢を受けて絶命している。
立っている者で息を永らえている者は少なく、全員が満身創痍だった。
牟田口は息を吐き出す。

「救護兵!」

そういった後、おそるおそる辺りを見回したが、部隊はほぼ壊滅していた。
身を伏せたまま背後に目をやると、相沢隊の動きが忙しない。
特に救助術法隊や戦術・戦略術法隊の動きがあわただしい。
士気の低下を恐れて戦術術法隊を動かしたのだろう。
再び前方へと視線を戻して、射点を探したが、敵の擬装は完璧だった。

(これでは前進できんではないか)

心の中で吠える。
沈黙を守っているが、すぐにまた嵐が来るとも限らない。
牟田口自身は進むつもりだったが、兵の様子はそうでもなかった。
地面には外れた矢がてんでばらばらの方向に突き立っている。
が、ちょうど牟田口隊が存在する面の中で直線が交わるように矢が放たれていた。
命中精度は良くないが、かつてないほど濃密な矢の集中により戦友が肉の塊に変わっていたことにより、激しい衝撃を受けていた。

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2012/06/23 (Sat) 小説ログ Comment(0)
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