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2024/05/12 (Sun)
ファランクス(改訂版)

タイトル:『戦況報告』

国力を使い果たしつつあった。戦争継続のためにありとあらゆる資源を戦争へ送り込んだ。


キーワード:小説 Kanon ファランクス第一章改訂版 SS 独自世界観 ファンタジー ジリ貧 戦況説明 前半説明 後半航空戦 バトル 航空魔導師 陣地構築中 アリシア魔改造 ラスレム ユニークリーダー 一般リーダー


修正履歴
H23.9.3 初掲載
H23.9.9 誤字修正(ハボナ平原での梓兵団の位置)


ファランクス

-首都防衛戦-

2. 戦況報告



月丘の首都では、既に物資の統制が始まり、ありとあらゆる資源を戦争へと送り込み、異常な速度で消耗していった。
たとえば食料が配給制になり、酒などの嗜好品が手に入らなくなっていた。
鉄の入手が困難になった。1日の水の使用量も制限された。
生活への影響が深刻なレベルに到達していた。
緒戦、陸海軍が三路湾にてあげた赫々たる戦果をあげた。
かつて相沢春仁が、息子である祐一に向かって、敵国<北華>を出し抜いていると語ったものである。
船上にて北華海軍航空隊を壊滅させ、現在でもエアカバーに苦しむ状況を作り出した点においては大成功といえる。
が、中途半端に勝ちすぎた。
北華、特に海軍は復讐の完遂を強硬に主張し、陸軍もそれに引きずられた。
月丘の国民は勝利に酔い、さらなる戦果の拡大を求めてしまった。
お互いに引くに引けなくなり、消耗戦に突入していったのだ。
元より月丘には資源がない。消耗戦を行えば、どんな運命が待っているのかは自明のはずだった。

「国王様」

春仁は、壇上の最高権力者に向かって拝礼してみせた。
目を上げると大きすぎる国王の椅子には、息子と同じ年頃の少女が置物のように座っている。
天真爛漫だった笑顔を影に潜め、表情が消え能面のように冷たい目をしていた。
なんと変わり果てたことか。
赤い心臓を、ぎゅっとつかまれたような気がした。
彼女は息子と一緒に遊んだこともあった。同年代の少年たちに混ざって木登りするくらい元気な娘で、一時は頭から落ちて死に掛けたこともあったくらいだ。
あのときの前王が取り乱した姿は後にも先にも見たことがない。
本来、資源獲得のための戦争を推進していた前王は頭の血管が切れて死んでしまった。
前王は種が少なく子供は彼女だけだった。
自然と、次の王位が回ってきた。
残酷な運命だった。だが、彼女がわがままを言って断ることができなかった。
今は戦時中、父親の死は秘匿された。
彼女は戴冠し、国王となった。
その瞬間、「月宮あゆ」という少女は、人ではなくなった。
感情を消した姿は彼女なりに状況に適応した結果なのだろうが、職務だと心を殺さなければ、見ているだけで苦しい。

「現状を報告いたします。
 幸村中将率いる第三軍は六号街道を北進、オムラに防衛拠点を構築中です。
 拠点の完成率は約七割です。
 続いて、第五軍および、梓兵団は北西のハボナ平原に布陣しています。
 一ノ瀬少将指揮の下、突貫作業にて陣地構築を行い、現在完成率五割。
 すべて予定通りに進んでいます」

上空を巡回する翼竜のいななきが聞こえる。
甲高い鳴き声が遠くなるのを待って、国王は片肘をつく。

「で、問題は?」

「人員と物資の不足です。
 はじめに人員についてですが、前線から魔導師や術法使いの補充を求める声が上がっています。
 これに関しては、速成プログラムにより対応していますが、需要が供給を上回っております。
 また、高山種を扱える竜使いが足りません。
 現在訓練中の竜使いは約100名おりますが、訓練飛行時間が足らず前線に出すまでには最低でも後二〇〇時間必要です」
 次に、物資についてです。
 特に、鉄、銅、医薬品が不足しています。
 具体的な数値について資料にまとめましたのでそちらをご覧ください」

周囲の内政担当者がガリ版の資料に目を通して、うぐぅ、といううめき声をもらした。
物資が慢性的に足りない。鉄に至っては充足率五割を下回っていた。
財務の役人も紙を冷や汗でふやけさせながらも必死にページをめくる。
彼らの頭脳は瞬く間に消えていく国庫をどうやりくりさせるかに集中していた。
その中で、一際目立つ女が静かに挙手をした。
魔族特有の赤い瞳に、赤いルージュを引いた唇。
戦時のため、オリーブ色の軍服に身を包んでいたが、ツンと香る女の体臭までは隠せない。
沢渡真琴。魔族から派遣された女だ。

「質問、よろしいですか?」

彼女は厳しい目つきだ。

「どうぞ」

「将軍。前回も物資が足りないと仰られませんでしたか?
 この報告書を読むと、一ノ瀬少将への建材供給量が予定していた量を著しく超えているように見えますわ。
 理由を教えてくださりません?」

彼女の指摘通り、第五軍への建材割り当て量は作戦承認時の倍以上に膨れ上がっていた。
軍が確保していた分では足りず、民生用に蓄えた分まで流用されている。
民生用を流用するに当たり、公共事業を扱う内政部門の話をつけ承認されていた。
だが、この話を知っているのは軍と内政部門、財政部門、国王ぐらいである。

「既に関係各所へ手配済みです。そのことを踏まえて説明いたします。
 国王様、かまいませんか?」

視線を国王に向ける。
国王は、了承、といわんばかりにうなずき返す。

「沢渡さん。
 最初に結論を申し上げると、一ノ瀬少将は拠点構築にあたり計画に大幅な改変を行いました。
 その結果、当初予定した量と比べて約三倍の建材が必要であることがわかったのです」

「三倍ですって?」

「そのために、まずハボナ平原の地形について説明します。
 ここから北西一〇〇キロの地点にあり、敵第二集団の予測進路上にあります。
 西から湿地帯、非常になだらかな丘陵地帯、地盤が固い牧草地に分かれており、現在一ノ瀬少将は、真ん中の丘陵地帯に陣地を置いています。
 平原全体は非常に見通しがよく、遮蔽物が存在しません。
 ここにハボナ平原を測量した図があります。今から投影するのでご覧ください」

王宮付の魔導師に図を渡し、投影されるのを待つ。
魔導師の詠唱とともに何もない空間に水色の魔法陣が出現した。
その間、従者たちが外からの光を遮断するためカーテンを下ろした。

「図の見方を説明します。
 図に記されている曲線は地形の高さを示しています。
 線の間隔が狭いと傾斜が厳しく、間隔が広いと傾斜が緩やかであることをあらわします。
 斜線が惹かれている部分は地形が下がっていることを現します。
 中央西よりの地点が布陣地点です。
 周囲の線の間隔が広いことから、非常になだらかな斜面になっていることがわかります。
 梓兵団は、第五軍から少し南に下がった位置に布陣しています。
 線が狭、狭、広、狭、となっており、狭い部分には斜線が引かれています。
 このことから窪みに布陣していることがわかります。
 それでは、もう一枚の図を投影します。
 君、この図を重ねて投影してくれ」

魔導師にもう一枚の図を手渡した。
すぐに投影され、先ほどの図とは異なる、明らかに複雑な線がくもの巣のように描かれている。

「これは?」

「ハボナ平原一帯の地下水路図です。
 一ノ瀬少将は地面を掘削し、個々の防衛線を地下水路、および坑道同士を接続する工事を進めています」

彼女は考えるため、少し間をおいた。

「なるほど。
 一ノ瀬少将は地下陣地を構築している。
 坑道同士を接続、あるいは補強するために大量の建材を持ち出した、という認識であっていますか?」

「そのとおりです」

「でも、このような陣地ははじめてですわ。
 一ノ瀬少将はなぜ、こんな手間のかかることを推し進めているの?」

「戦訓の研究によるものです。
 北華の海兵隊が上陸戦闘を行う場合、航空魔導師を用いて、事前に障害となりうる遮蔽物や防衛拠点を破壊します。
 六号街道沿いであれば、天測所を用いた早期警戒網により、敵航空魔導師の侵入を防ぐことが可能です。
 ハボナ平原では天測所を設置しても破壊されることは必定。
 加えて防衛線が長大になるため、すべてに防空戦闘が可能な術法隊を配備することは我々の物量からして不可能です。
 しかし、地下にもぐることで地表という遮蔽物を手にすることができます。
 また、地下を行き来可能にしたことで陣地の縦深化を実現し、防御能力を向上させています」

「まだ手間をかける理由を教えてもらっていないわ」

「すべては敵、北華の物量に対抗し、市民が脱出する時間を稼ぐためです」

毅然と言い切って、さらにもう一枚の地図を取り出した。
魔導師に手渡し、並べて投影するように指示を出す。

「参考までに、オムラ一帯の地形図も持参しました。
 ハボナ平原と比較してみてください。
 六号街道が南北に伸びています。
 東側に山岳地帯があります。線の間隔が狭く、斜線が濃くなっています。
 オムラは街道と山岳地帯にはさまれています。
 街道の西側は木々が林立しているため、でこぼこしています。
 つまり遮蔽物が多く、防御に適した地形であると考えられます」

そのとき、すぐ先の扉が開き、アイザック・テスタロッサが眼鏡をかけた小さな顔をのぞかせていた。
半年ほど同じ部隊にいたことがあったので、王宮にくるごとに、口をきく相手である。
長身で金髪の優男でたいそう女にもてた。
こちらの姿を見つけるなり、緊急だ、と階級章を掲げて衛兵に断りをいれた。
細身を扉にすべりこませ、あっという間にすぐ側まで駆け寄ってきた。
魔法陣の光から逃れるように脇へ寄ると、テスタロッサは身をかがめて口を耳打ちをする。

「本当か」

もちろんさ、と、テスタロッサが答える。

「では、お前が伝えろ。緊急事態だからな」

すぐさまテスタロッサは国王の正面に歩み出てから拝礼し、顔をあげるやいなや声を張り上げた。

「申し上げます!
 敵第一集団、オムラ到達! 幸村中将以下第三軍は防衛戦闘を開始しました!」








+×+×+×+×+×+×+×+×

――オムラ、航空部隊指揮所。

ヤーマ族の巨体がうごめき、魚から進化した過程を示す尾びれを床に這わせる。
太くたくましい腕の中には、小さな文庫本が納っていたが、それを机に伏せ、のっそりと胴体にくらべて短い足を前に進めた。
壁に立てかけた歪に湾曲した刀の側に寄った。
刀は、平均的な成人女性の肩幅はあろうかという太く、二メートル近い刀身は人間が持ち上げることすらかなわず、ヤーマ族にしか扱えない代物である。
白兵戦を過剰に意識した鈍器は、過去に血を吸ったのか鈍く妖しい光をたたえていた。
そして、ゾレアン・バステロッサ大佐は武者震いを隠さなかった。

「きおったか」

『魔法使い』が構築した早期警戒網により敵航空隊の接近に気づくことができた。
敵航空隊は一〇〇人で構成されている。
敵は編隊を組んで中高度から侵入。
緩降下による魔法攻撃を行うため、射撃体勢に入った。
北華の海軍航魔導師隊は緒戦でベテランを大量喪失したため、今もなお人材不足に悩んでいた。
急降下攻撃により指揮所を破壊したいところだったが、技量不足訓練不足によりその戦術を採ることができなかった。
対して、月丘側の航空隊は哨戒任務で空に上がっていた『電』部隊(別名ライトニング中隊)のみ。
全部で十二名と八分の一に過ぎなかった。
しかも名人揃いの『長槍』部隊と違い、元々『電』部隊の構成員はすべて速成教育により生み出された、個々の技量は並以下の状態で戦場に投入された航空魔導師である。
当初は、北華海軍航空魔導師隊が本来の実力を持ってすれば七面鳥撃ちができるほどの低い技量しか持たなかった。
だが、北華の航空戦力が激減したことから『電』部隊は生き残り、経験を積んでベテランとなった。
『電』部隊の特徴は一撃離脱しかできない代わりに、編隊行動したまま高速戦闘が可能な点だ。

「今回は敵も相手が悪いと思うだろうよ」

ゾレアンは天井を仰いだ。
そのとき、まさに、四人組を一編成とした三小隊が邂逅地点を計算し終え、急降下に移った。
『電』部隊は敵の鼻っ面を殴りつけようとしていた。
先陣を切った航空魔導師の名はアリシア・テスタロッサ。
アイザック、プレシアの愛娘にして、撃墜スコア六十という航空隊のエースだ。
殺気を、槍の先端に魔力を集める。
父親から受け継いだ金髪をたなびかせ、槍を抱えてまっすぐ突っ込んでいった。

上空から突き刺すような殺気が敵の魔導師の体を貫いた。
さっと顔を上げると、敵と思しき光点が急速に大きさを増している。
だが、射撃準備に入ったため、姿勢を崩すことができない。
しかも自分は先陣である。
後続の部隊に動揺が伝わり、編隊が崩れてしまうことを恐れた。

「敵、上空!」

「上がれ、上がれ、上がれっ!!」

護衛の魔導師が近づきつつある敵を迎え撃とうと高度を上げた。
間に合ってくれ、と先頭の魔導師は願いつつ、一方で冷静に眼下の射撃目標に照準を合わせる。

「速いっ」

「あんたら、遅いんだって!」

そして十、九、八、七、とアリシアは敵と邂逅するまでの時間を数える。
アリシアたちは進路を変えない。緩降下する魔導師が進路を変えていないためだ。
護衛の魔導師たちが行く手を阻もうとする。
だが、一瞬遅く、すれ違う。

六、五、四、三まできたところで槍先にためた魔力を解放した。
直後に、個々の槍先から二重円と隙間に反転して回転している二つの正方形、更に大円の隅に小さな円と文字が描きこまれた魔法陣が出現する。

「そうだ、風の流れを読むんだ。もうちょい右」

敵魔導師もそろそろ照準をつけ終えるというところか。

「よし、そのまま。進路よし、風よし。よーい……」

二、一、ゼロ。

射撃を始めようとした魔導師の意識が消し飛んだ。
後続の魔導師は突如として出現した赤い霧が何なのか認識することができずにいた。
そうこうしているうちに霧の中に頭から突っ込む。生暖かさを不快に感じた。

先頭にいたアイツはどこに行った?

ふと、そんな疑問が浮かぶ。
何もせず射撃体勢をやめるわけにはいかないため、やけくそ気味に射撃の掛け声を放った。


彼らの頭上で戦いが繰り広げられるなか、ゾレアンの傍らに腰掛けていたセスが青い瞳を巨体に向け、長い足を組みかえる。
色気のあるしぐさだったが、ゾレアンは異種族の女性相手に男性の本能を刺激されることはなかった。
そして、爆音が見当はずれの場所から聞こえた。
どうやら敵は第一撃を加えるのに失敗したらしい。

「この分ならしのげるな。被害を知らせよ」

セスは、すぐさまゾレアンの命令を隣室の通信魔導師たちに伝えに走った。

魔導師による空の戦争にひと段落がつくと、ゾレアン、セスらはこれまで現場からの被害報告をまとめている。
『電』部隊の迎撃によりタイミングをはずされたとはいえ、死人ゼロ、石材の集積所がひとつ被害にあった程度という軽微なものだった。

「相変わらず敵さんの航空隊は練度が低いのお。今回も敵に救われたようなものだな。
 だが、やられっぱなしは癪に障る。
 セス副官、『長槍』に伝えろ」

「今度はどんな嫌がらせですか?」

セスは顔色ひとつ変えずに聞き返した。
すっぱいのがよいの、と、ゾレアンは茶目っ気混じりに答えてみせた。



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