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2025/07/30 (Wed)
魔法少女リリカルなのは 2次創作

短編

ある傷病兵の処遇について



「賛成しかねます。大っぴらに子供を前線に放り出すというのは人の道に反しますわ」
「何を仰るか。我々は既に少年兵を大量生産している外道ではないか。十歳の子供に武器を与える事と、十二歳の子供に撃たせる事と何の差がある」



◆もがれた翼


「Fランク……これでは使い物になりません」
 新暦六八年、時空管理局・本局内某所。レティ・ロウランは書類から目を離した。書類はミッドチルダ語で記されており、よく読めば診療記録だと分かる。
 添えられた写真には栗色の髪を持った幼い少女が映っていた。
「我々は貴重な戦力を失いました」
 レティはため息をついた。写真に映る彼女とは親しい間柄だ。それだけに割り切って言い捨てるのは悲しい出来事だった。
 彼女は書類をずらして、一回り幼い少女の写真を見やる。負傷前の診断記録だ。【ランク】と書かれた欄の隣にはAAAと記録されていた。
 質量兵器が禁止されて半世紀以上が過ぎた。時空管理局は巧みな情報操作やアルカンシェルをはじめとする次元兵器により、魔導師の絶対優位神話を管理世界中に浸透させることに成功していた。「AAA」が指し示すのは魔導師の強さであり、時空管理局が保有する絶対暴力の象徴となる可能性を秘めていた。
 レティは書類を机上に置き、視線を対岸に座る初老の男に注いだ。
「ついては、早々に彼女の処遇を決定する必要があります。原隊に復帰させても足手まといになるだけですから。准将……いえ、少将のご意見を伺えないかと思いまして?」
 男は細身の体を空隊の制服に包み、背筋を伸ばして座したまま黙していた。短く刈った灰色の髪。高貴さを漂わせる顔に刻まれた皺と傷痕から、彼の半生が闘争に捧げられたことを想像させ、ゆっくりと開かれた灰色の瞳はまるで獲物を目にした猛禽類である。
 彼の名はハミルカル・エイブラム少将。元時空管理局本局第二十二航宙機動群所属。当時の階級は准将であり、時空管理局草創期に【伝説の三提督】の露払いとして闘争に明け暮れた男だ。
 現在は、第八、第二十八管理世界など統括する支局への派遣が決まり、その準備をしている。
 記録では老いた三提督よりも早くに生を受けたはずだが、目の前の姿は若々しく見えた。もっとも亜空間機動戦からの帰還であるため、彼と三提督らの歩んだ時は等価ではない。
「不要品は廃棄処分にすべきだ」
「手厳しい意見ですね」
 レティが予想通りの反応に喉を鳴らして笑った。室内に響いた僅かに嘲りを含んだ笑い声は低く反響し、ある種の不快感を催させるものだったが、エイブラムは気にした素振りを見せなかった。むしろ彼は、一魔導師の進退に口を挟むべき事なのか、と目で語っていた。
 レティは思う。いらないから捨ててしまえ。至極その通りだ。空隊魔導師の職務は三次元戦闘に対応できるだけのスキルを必要とされ、この条件を満たした者にはB以上のランク付けが行われる。彼らはエリートと呼ばれ、相応の危険と責任を負う。だが、Fランクは陸を這うことしかできない。魔導師のスタート地点であると同時に、そこから抜け出せない者は見下される。彼らは魔導師を分類するためのカテゴリでは最下層に位置していた。
 事故前の彼女は管理局全体でも一握りしかいないとされる砲戦スキルを有していた。AAAという記号がその証拠だ。砲戦には卓越した防御力と火力を要求される。空隊は優秀な魔導師を多く保有しているが、多くはいずれかの資質が欠けている。
 若すぎるきらいはあるが、彼女の力は一方面軍に一個連隊分の人数が配備されるような存在だ。それがリンディの手許にあるということがどのような意味を持つのか。政治的な意味合いでも、彼女は戦力だった。
「彼女が抜けるとなると、リンディとのバランス取りが難しくなるのです」
「ハラオウン提督の手札は二枚かね?」
 レティがうなずく。
「そして君の手札は五枚。あの玩具共だったな。ハラオウン提督自身とスクライア少年を加えても一枚余りが出る」
「バランスは大切です。こと保有戦力の差ですから、慎重に加減しないといけませんわ」
 エイブラムが闇の書とその付随物に対して隠語を口にした事をレティは咎めなかった。
 むしろ、同調するように微笑んだに過ぎない。
 コーヒーに口を付けていたエイブラムの表情が、彼女につられて柔らかくなった。
「ならば、私が横槍を入れたことにすればいいのではないかな。これなら彼女との友好関係に余計な亀裂が生じずに済む」
「あら、親切ですね」
「友人とは掛け替えのないものだからね」
 エイブラムがカップを置き、背もたれを深く沈み込ませると、レティの茶化すような口調にため息を吐きながら応えていた。
 彼は天涯孤独の身だ。
 瞳に哀しみをにじませた彼が肩をすくめた。
 両まぶたを閉じると、今は亡き友人達の姿を思い浮かべてしまい、感極まったかのように唇を一文字に引き結んだ。
「そうでしたわね。少将のご友人は……」
「せっかく帰って来られたというのに、待つ者がいないというのは寂しいな。残るは恨み、憎しみを抱いていた者ばかり。予期してはいたが、やはり帰るべきではなかったか」
「泣き言とは少将らしくない」
 レティに言われるまでもなく、エイブラムは感傷に浸った自分に苦笑した。
 だが、それも束の間。彼は鋭い眼光を放つ鉄面皮に変貌を遂げる。
「話が逸れてしまった」
 感情を抑え冷えた声音だった。苦しさを覚える雰囲気にもかかわらずレティは柔和に笑顔を絶やさなかった。弱みを見せた男の切り替えの早さに驚きながら、怜悧な瞳で、一歩退いたところからエイブラムという男を観察していたのだ。
「ところで彼女には、まだ魔導師を続ける意思はあるのかね?」
「ええ。直接言質を取っています」
「そうか」
「私のプランでは後方支援部隊に異動してもらおうと考えています。後方支援なら魔導師であることが考慮されません。それに彼女の能力に目がいきがちでしたが、彼女は、まだ十二歳です」
「なるほど。彼女に哀れみを与えるのか」
 エイブラムが不満を露わにした。嘲るような物言いに、レティの口の端が歪む。
「乞われるより与える方が幾分かマシだと思いますよ」
 とはいえ、レティには高町なのはが哀れみを乞う場面を想像することができなかった。二大事件を闘い抜くだけの強固な意志を持った少女が、他人に対して無様な姿を晒すとは考えられなかった。
 歪んだ唇を一瞥したエイブラムは表情を引き締める。
「君の親友ならどうすると考える」
 リンディ・ハラオウンの事だ。
「彼女の意思に任せたい、とでも言うんじゃないかしら。事件後、インテリジェントデバイスを取り上げようとしなかった彼女ですもの、間違っても切り捨てようなんて考えもしないはず。リンディにとって彼女は家族同然ですもの」
 ここで、レティはあえて家族という言葉を用いた。友人というキーワードに反応を示した彼が、再び何らかの反応を、男の弱みを見せるのではないかと期待していた。
 しかし、彼女の目論見通りにはならなかった。
「君の親友は」
 エイブラムが言葉を止め、
「家族ではなく手駒の間違いではないかね?」
 と語った。
 帰還してから一年が経過している。彼もまた、リンディの経歴を耳にしていた。そして同じ船乗りとして、クライド・ハラオウン提督の英雄的行動に感動したことを、レティ本人に告げ、そして墓地に敬礼を捧げる光景を目にしている。
 彼の変わり様に、レティは表情を変えなかった。内心では、エイブラムが親友の薄皮を剥ごうとする光景が思い浮かんで仕方がなかった。
「君の親友が、或いはその家族が道を示したら、やはり彼女は従うかね」
「可能性は……」
 レティは言いかけて、やめた。確かに可能性はあったが断定はできない。診断書を見なければ、言い切っていただろう。
 彼女の価値は強力な魔導師であることの一点に尽きる。この世界で彼女が認められる唯一の条件を喪失してしまった今、自身の存在意義について自棄になることも考えられた。
 そして管理局内に少なからずはびこる、管理外世界出身者への差別感情。同じ管理世界同士でも拭うことができないというのに、彼女への風当たりが激しいものへ変化していくことが容易に予想できた。
 時空管理局が秩序をもたらし、そこに夢と希望を見出していた彼女には、辛い仕打ちが待っているだろう。
「どの道を歩もうとも、決して彼女に優しいはずがないのですから」
 エイブラムが頷いて、同意する。
 レティは悲しげに首を振って、
「それでも彼女は辞めないでしょう」
 と付け加えた。
 そしてエイブラムは、経歴と性格から判断しての自説を披露し始める。
「まさしくその通り。いっそ管理局を辞めた方がいいと思うかも知れない。だが、できない。一度決めてしまった道を覆すことは彼女の信条に反する。いくら魔導師が足りないと言っても欠陥品を用いるほど我々は困窮してはいない。
 ならば、私は命令を下す。最も厳しい道を歩ませる。損益が分かる前に、本当に死んでしまったら彼女はそこまでの存在だ。運がなかった。力を失った時点で彼女は終わっていたのだ。
 しかし、こうは考えられないかね。もし、彼女が後遺症を持たず、夢を叶え、仲間や友人と輝かしい未来を進む。大きな事件を次々解決し、英雄と祭り上げられ、傲慢に成長してしまった彼女を目にしていたら」
 エイブラムは熱を帯び始めた言葉を切る。彼の舌には感情がのっていた。
 レティには彼が重ね合わせている物を察して、再び口を開くのを待つ。
「そして彼女は管理局を統べる立場に就く。もはや傲慢さを正す者はいない。
 周囲には彼女に優しい者達だけ。結果、管理局はさらなる管理を求めていく。自分たちの正義を振りかざして。
 提督。彼女を三三〇七へ送る事を提案したい」
 三三〇七。レティはどんな部隊なのかすぐには思い出せなかった。人事権を握っているとはいえ、全部隊の詳細を把握しているわけではない。彼女は端末に手を伸ばしてパネルを操作した。
 三三〇七混成部隊。管理外世界や第八、第二十八管理世界出身者などで占められた部隊である。
 現在は第八十三管理世界において治安維持任務を担当している。
 レティが端末から目を離すことなく、
「彼女を手許に置くつもりですか」
 エイブラムへ問いただす。第八十三管理世界は支局の管理下であり、数年前から紛争指定世界に位置付けられていた。
「形式上は」
 提督権限を使い、三三〇七混成部隊について情報を引き出していく。隊員の顔写真が並べられた画面に切り替わり、その多彩な人種にまず驚く。そして唯一、二等空尉の階級章を身につけた隊長の経歴を展開し、画面を繰り下げる。
「部隊長が督戦隊出身とありますが……それはつまり、彼女に死ね、と?」
「地獄への片道切符とも言うがね」
 彼は悪びれずに答え、席を立った。





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