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2024/05/11 (Sat)
ファランクス(改訂版)

タイトル:『六号街道制空戦<六・六> (III)』

決闘精神を誇りとする海軍航空魔導師隊にとって、彼女らの戦い方は酷く醜いものに映った。

キーワード:小説 Kanon Air ファランクス第一章改訂版 偽りの月版と展開が少し違います SS 独自世界観 ファンタジー 航空魔導師 話数分割 突入 書けた分だけアップ 航空戦


※執筆時に城山三郎「死の誘導機」を読んでいたので所々似た表現を使っています。


修正履歴
H23.10.1 初掲載


ファランクス

-首都防衛戦-

6. 六号街道制空戦<六・六> (III)




『鉄』部隊の攻撃は、まさに、平穏な空に突如雷鳴をとどろかせるような衝撃だった。
最初に、軽りゅう弾と空気との擦過音に気がついたのは、先頭をいく神尾晴子であった。
大気を裂く不吉な音。
合流地点までもう少し、と思っていた彼女は、その音を頭で理解する前に体が動いていた。
大きくバンクを振り、弾頭の射線上から逃れようと旋回運動に入ったのだ。
当然、後続部隊の隊列は乱れた。
だが、『鉄』部隊は晴子の予想に反して進路の手前で、弾丸を爆発させるように調整していたため、反応が遅れた者は炸裂した軽りゅう弾によりばらまかれた破片の中につっこむ形になってしまった。
防護服に無数の破片が突き刺さった。
そして亀裂に薬剤がしみこんでいく。
この薬剤、延焼効果を持つのだが、『鉄』部隊によって放たれた第二射により、空域一帯が火炎に包まれてしまった。
火炎が薬剤に反応して広範囲に煙幕が形成された。
煙幕は合図をかねていた。
それはなぜか?

「全隊、散会しろ!
 敵、来るぞ!」

『ガントレット』からの緊急念話である。
左翼を飛んでいた彼らは煙幕に包まれた空域へと頭から突っ込んでいたが、高速接近する飛行体に気がついていた。
右翼の『スパルタクス』が接近する飛行体の進路を阻害するために前に出た。
だが、飛行体は恐ろしく高速だ。
旋回により進路からそれつつある先頭集団において、神尾晴子は二条の魔力光を目視した。
一つは黄金色、もう一つは鉛色。
それらは何度も見てきたものであり、何度も焦燥感におそわれたものだ。

「敵種、ライトニング!
 ペネレート!」

北華呼称『ライトニング』は月丘の『電』部隊を指す。
過去の戦闘では、彼らのインターセプト(要撃)により煮え湯を飲まされてきた。
部隊の筆頭格であるアリシア・テスタロッサは、その容姿から月丘のプロパガンダに何度も登場している。
可憐で清楚な姿とは裏腹に、思い切りがよく修羅めいた戦いぶりだ。
撃墜スコアのほとんどは、飛行経験の浅い若年兵を撫で斬りにした結果である。
決闘精神を誇りとする海軍航空魔導師隊にとって、彼女らの戦い方は酷く醜いものに映った。
海軍航空魔導師隊が言う、正々堂々とした決闘精神では力ないものに情けを掛けないのは卑怯であった。
航空魔導師の質・量に劣った月丘側からしてみれば、北華海軍航空隊の言い分は、独りよがりなものとして捉えられており、まともに正面からやり合った結果、無惨な敗北が待っているのは自明の理だった。
もう一つの部隊は『ペネレート』、月丘の『貫』部隊を指す。
鉛色の魔力光が特徴で、『ライトニング』と同じく高速機動を得意とする。
ただ一撃離脱に徹していた『ライトニング』と違い、突入により生み出された破孔部から、戦果を拡大することを目的としていた。
煙幕に向かって高速で直進してくる。
攻撃側の半数以上が、初めての戦闘である。
経験のない事態に適応が遅れ、戸惑うものが多かった。
散会しろと言われても、密集していたことや、煙幕による視界不良の中で、お互いに接触しないようにするだけで精一杯だった。
隊列が乱れたまま攻撃隊に向かって『ライトニング』『ペネレート』が突入する。
『ライトニング』は一個中隊十二名でそれぞれ槍を構えている。
全員の槍の穂先には、二重円の隙間に反転して回転する二つの正方形、さらに大円の隅に小さな円と文字が描き込まれた魔法陣が形成されている。
楔を打つかのごとく、黄金色の魔力光が煙幕を斬り咲いていく。
対して『ペネレート』は一個中隊十四名である。
途中二名が防護服の破損により陣地に引き返していた。
彼らは単縦陣を形成していた。
先頭を行く小隊はプロペラ上にしつらえた三枚の刃を回転させ、刃の外周に大円があり、大円の縁には無数の小さな六ぼう星と文字が描きこまれている。
さらに後続の二小隊が、魔力弾を部隊の周囲に、螺旋状に高速回転させていた。

「あかん」

晴子はうめいた。
『スパルタクス』の妨害が不発に終わった。
『ライトニング』が増速したためだ。
魔力の穂先は輝きを増し、大きさも増していた。
煙幕が巻かれた空域に到達した敵は、煙幕の中に突進し、晴子の眼前から消えた。



+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×



煙幕の手前で増速する。
『貫』(ペネレート)部隊の隊長からの提案だった。
敵も自分たちの飛行特性を把握しているだろうから、必ず進路妨害を行ってくるはずだ。
そのタイミングを外してやろう。
ニヤリ、と笑いながら話しかけてきたのは学生時代の先輩だった男だ。
アリシアは迎撃作戦に何ら支障がないことから、その提案に乗った。
煙幕の中で視界が利かないのは敵味方お互い様だった。
迎撃作戦の第一段階は水際防御だった。
『鉄』部隊が煙幕投射を行い、敵を視界不良な空域に追い込む。
煙幕が有効な間、迎撃隊は突入を繰り返す。
少しでも敵の数を減らすためだった。

案の定、敵部隊が進路妨害を試みようと、小さな半径で旋回してくる。
しかも、反応が速い。
威力は少ないが直進性の強い魔力弾を試射してきた。
アリシアは敵が速度差を把握し、弾道を計算するためのだと直感する。
それほどに無駄のない動きだった。
冷や冷やしながらも、手はず通り増速する。
アリシアの判断は一瞬速く間に合った。
わずかに遅れて敵弾がすり抜けていく。

「突入!
 離れるな!」

同僚に向けて念話を発した。
煙幕に突っ込む直前、アリシアは体中が熱くなった。

(粉々になるまで、打ちのめしてやりたい)

彼女は闘争心に火がつくのを感じ取った。
煙幕の中をただまっすぐ飛ぶ。
何度か防護服を引き裂いた感触があった。
戦果は煙が風に流されるまでわからない。
視界不良の中、ところどころで燃えている光景を目にした。
北華の魔導師の一部が、『鉄』部隊の薬剤散布とアサルトフレアにより、火だるまになっている。
あわてて応戦しようとして、互いに接触するものの、ずいぶんと混乱しているようだ。
煙幕を抜けると、防護服に返り血がついていた。
気にしていられなかった。
一度煙幕を突き抜け、、上昇しながら速度を落とさないようにゆっくりと左旋回。
反復攻撃のためもう一度煙幕に突入した。


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