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infoseekの本サイト消滅につき旧作品が行方不明に…… 横浜みなとみらいを徘徊する記録
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2024/09/06 (Fri)
魔法少女リリカルなのはA's After Story
――Puppet Manipulator――






0.Intro


 雲一つ無い青空が、突然黒炎を上げて爆発した。 砂漠ミミズの赤い肉片と体液が、空中で飛散して熱砂へと降り注ぐ。 砂漠ミミズとは、陸地の八割が岩と砂に覆われた世界に生息する虫である。 全長十五メートル前後、直径は約一メートル。特に大きなものなら全長二十メートル、直径三メートルに及ぶ。 硬い伸縮性に富んだ殻に覆われ、超音波の反射によって対象物との距離や大きさを知る。 そして獲物を丸飲みにして円状に、且つ層状に等間隔に配置された四百個に及ぶ小さな歯で磨り潰す。
 表面温度が六十度から七十度にも達する砂漠に落下した体液は数分を待たずして沸騰し、体内を循環する新陳代謝を促す養分や老廃物、色素などが煮詰まって醜悪な黒い塊に姿を変えていった。
 身体の四分の一を破壊されて、砂漠ミミズの拳程しかない小さな脳が痛みを知覚した。 地中で十キロ離れた獲物を発見する優れた聴覚で、自分の身体を吹き飛ばしたモノが、たった二三メートルの大きさにすぎない事を知った。 時折砂漠を行き交うヒトなる種族に似ていた。
 身体の周囲をハエのように飛び交うソレは、ヒトでもなく亜人でもない。 全身を直線と曲線で構成した鎧で覆い、兜から露出した四つの瞳を持つ。 己を武器とすることができない脆弱な身体は、一様に棒のような得物を握っていた。 先ほど身体の一部を肉片に変えた攻撃はソレによるものだった。 絶えず動き回っていたがために傷口が裂け、よりえぐれて、体液の流出を止めることができない。 傷口を焼く事もままならなかった。
 口から主要消化器官に至るまでの道には、潰しきれなかった外殻や骨を完全に粉砕するための歯が幾重にも連なっている。
 今、生存本能が活性化する。ソレを喰らい、養分とすることで失った身体を再生するのだ。
 己の存亡をかけて長大な身体をくねらせた。 全身を地上に露出させ、空中で鞭のようにしなり、恐るべき速さで巨体を振り回す。 超音波の送受信によって位置情報を書き換えながら縦横無尽に地上を、空中を、砂漠ミミズが舞った。 何千個もの外殻の節が蠢動《しゅんどう》し,裂けた口から体液と酸性の消化液をまき散らし、つい数分前まで身体の一部だった塊をたちまちに溶かしていく。 空に浮かぶ三体のソレは、高速で軌道を変え、サーカスのように縦横に回転し、器用に砂漠ミミズの攻撃を逃れていた。 外殻の模様がはっきりと判る位置まで顔を近づけて、得物から赤や青、緑の光を放った。 それは破壊の意思を携えて高速で直進し、無数の破片をまき散らしていった。
砂漠ミミズはこの程度の損傷を意に介さなかった。時間が経てば、新しい組織に置き換わるのである。
 三体は縄跳びのような踊りに気圧《けお》されてか、徐々に後退していった。 距離を取ろうとしても、意外にも俊敏な動きを見せる砂漠ミミズにすぐに追いつかれてしまい、攻撃に決め手を欠いていた。 運動量の大きさではソレの方が遙かに上回っていた。 長引けば長引くほどに不利になっていく。だが、退くにも算を乱しているわけではなかった。 三体は連携し、後方二キロメートルに鎮座する灰色の岩山に向かって動いていたのである。
 このままでは岩場にぶつかる。砂漠ミミズはソレを猛追しながら小さな脳で考える。 砂漠ミミズは砂に潜れても岩には潜れなかった。 円状の歯は生物に対しては威力を発揮しても、岩を砕き続けるほど頑丈ではない。 だから岩場に逃げ込まれる前に喰わなければ、とそろそろ疲れを見せて、動きの切れが無くなりつつあるソレに食欲という名の執着を見せていた。
 不意に山の天辺にあった岩が転がり落ちた。ヒトの頭ぐらいの大きさである。砂漠ミミズの聴覚は、この岩山の周囲に生物を感知することができなかった。 岩を落下させるきっかけを作るには、最低限ネズミ程度の重量を必要としていたにも関わらず、砂漠ネズミは異常と認識しなかった。 僅かな思考領域は食欲と空間座標の把握で占められていたため、余計な情報として廃棄してしまった。



 岩山からヒトなら一見して兵器と分かる、細長い砲塔が伸びていた。 目標である巨大ミミズに悟られぬよう静止して、獲物が有効射程距離内に進入してくるのを待っていた。 五十度近い気温の中で対人用に造られた熱源探知機は役に立たなかった。 代わりに画像分析により目標の形状を記憶し、動作の傾向を解析して目標を捕捉する。 この時、砲塔の微調整を行ったために震動が発生して擬態に用いた岩石を落下させてしまった。 対象が気づいて、突発的な行為に移るのではないかと冷や冷やしたが、変化した様子は観測されていない。
 待ち伏せによる一撃必殺。 これが今回、彼に課された任務だった。
 射撃地点到達まで残り三十秒。自己診断プログラムが各種デバイスを最適な状態に保っていた。 攻撃管制、射撃管制、駆動力制御、目標探査探索追跡装置。機能を特化させたストレージデバイスである。
 彼は万が一のために大出力高速機動用魔導エンジンを始動させる。 始動用非接触式モータに魔力を注入する。 所要時間は〇.一秒に満たなかった。 同時に一時的に負荷が過大となる過渡現象が発生し、余剰魔力の逆流によって出力が相殺され、約一秒後に安定した。
 外の様子に注意を向けた。三体の味方機――傀儡《くぐつ》兵――が八の字を描きながら砂漠ミミズを死地に誘い込んでいくところだった。
 彼は攻撃管制に砲撃の意思を伝えた。 ミッドチルダ式の環状魔法陣が砲の先端に出現。 装填済みだった圧縮魔力の後尾に繋がる起爆スイッチの拘束が解除される。
 念話で合図を送り、味方機が一斉に砂漠ミミズから距離を取る。逆三角形の中心の延長線上に彼を置き、三体はそれぞれ頂点に位置。 得物を中心に向けて、拘束魔法を発動させた。
 レストリックロック《Restrict Lock》。 環状の光輪が出現し、黒ずみ歪んだ口を絞ろうと一気に収束する。 彼の目が魔法陣を捉え、口を縛られた巨体が砂塵を巻き上げながら勢いのままに突き進んだ。
 到達までの誤差を修正し、残り十五秒。 にわかに、砲塔の先端に灰色の魔力光が集中する。
 一万分の一秒刻みで減少する刻を意識しながら、起爆スイッチにパルス波を送るまでの時間を、ただ待機するのみ。 感知器《センサー》が計測した振動値が、残り時間に反比例して増加してゆく。
 彼にとって、感覚とは数値化された情報であり、思考とはデバイスの力を借りた行動の選択にすぎなかった。
 味方機が逃げの一手を決め込み彼に向かって加速する。
 残り五秒。 三体が一斉に上空へと軌道を変えた。 ほぼ直角に軌跡を描いて青空の中へ溶け込んでいった。

「ブレイズキャノン」

  彼が呟き、同時に起爆。
 圧縮魔力の一部が爆発して唯一の逃げ道へと噴出す。凄まじい砲声が鳴りわたった。 魔力の砲弾が空気を焦熱して熱赤外線の渦を作りだし、轟音を伴った巨大な渦が大気を引き裂きながらばく進する。 その先端が穂先のように鈍い光を発していた。
 砂漠ミミズは超音波の反射を待たずして、突然歪んだ大気の流れを感じとっていた。 猛烈な勢いで何かが近づいてくる。身をよじって避けようとしたが、身体が命令を実行する前に意識が弾け飛んだ。
 魔力の砲弾が光輪の中心に衝突した。最初の衝撃で外殻を破壊して砂漠ミミズの体内に侵入。 砲弾は潰れ、熱赤外線と切れ切れになった魔力を同心円状にばらまきながら、周辺の組織を外側へ押し広げて高速で貫通してゆく。
 波動は弱まることなく出口を作りだし、外気に触れた瞬間に自身を爆破した。 魔力の残滓《ざんし》に反応して誘爆を引き起こし、血が、肉が、臓器が、粉々に砕けて空を舞った。 既に四分の一を失っていたとはいえ、残り十五メートルの巨体に通っていた体液があたりに散布される。
 視界が赤い霧に覆われていた。


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