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2024/05/12 (Sun)
ファランクス(改訂版)



タイトル:『地下水路 (II) ハボナ平原制空戦』



「速攻!」



キーワード:小説 Kanon Air ファランクス第一章改訂版 偽りの月版と展開が少し違います SS 独自世界観 ファンタジー

  



※執筆時に城山三郎「神々の翼」を読んでいたので所々似た表現を使っています。



修正履歴 H24.4.30 初掲載

ファランクス


-首都防衛戦-


11. 地下水路


(II)ハボナ平原制空戦



 


 数十頭もの竜が鼻息荒くして、彼女の命令を待ちわびていた。

リンディ・ハラオウンは、倉田誠四郎と共に丘の上に立ち、地面を飛び立つ竜の姿を見上げている。

風に軍旗がはためている。

風はハボナ平原を通って吹き抜け、爆装した竜がさも重たげにゆっくりと高度を上げていく。

空は青い。

これから死の輪舞曲が流れるというのに、リンディの女としての美しさは際立っていた。

緑色の髪が風で乱れぬよう後ろで縛っている。

紺色の軍装。

華美さはない。

彼女は微笑みすら浮かべて、ハボナ平原で息を潜める、一ノ瀬たちにこれから振りかかるであろう不幸に喜びすら感じていた。

これは復讐である。

夫を焼き殺した敵性国家に対する復讐。

これから行う無差別爆撃を正当化する、彼女にとっての大義だった。



「壮観だ」



と、誠四郎は感嘆の声を漏らした。

数を揃えやすい火山種とはいえ、今、この時ほど大量の戦竜が空を舞う姿など式典以外では見たことがなかった。

演習でも数十頭が同時に動くなどということはなかった。

しかも全頭が爆装していた。

海軍海兵隊の十八番。上陸直前に敵の迎撃能力を奪うというものだ。

真正面から殴りあう正攻法だ。

数こそが力、と誠四郎は実感する。



「これからハボナ平原を焼け野原に変えて見せます。

 敵が這い出る暇もないように、徹底的に焼きつくすでしょう」



 フフ、と笑った。

その姿があまりに艶やかで、誠四郎は背に一筋の汗をかいた。



「そろそろ時間だ」



「ええ。戦果が楽しみですね」







+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++







 リンディの命にしたがって、竜たちが動き出す。

 爆装した竜の周囲を護衛魔導士たちが囲む。

 身軽な指揮機が本陣上空に遊弋し、他の竜よりもさらに上空に位置していた。

 眼下には敵の観測所。

 ゴマ粒大の人があわてた様子で小屋から飛び出していくのがわかった。

 護衛の航空魔導師が高度を下げた。

 槍を小屋と観測塔に向けて、呪文を詠唱する。



「掃射」



 槍の穂先から火球が生まれ、そのまま直線軌道に乗った。

 小屋に直撃し、破片が周囲に降り注ぎ、何人かが火球に飲み込まれた。

 続いて、観測所の周囲にも火球が落着して足が折れ、やがて重力にしたがって地面へと倒壊する。



「敵、観測塔を破壊」



「よくやった」



 護衛魔導師に対して礼を言った。

 ただ、今のでこちらの動きがばれたと操竜士は思った。

 遥か向こう、目的地周辺に魔力反応がある。

 魔力に敏感な魔導師は、敵の動きが活発になるのがわかった。

 反応は十に満たない。

 高山種があわてて離陸している。

 迎撃と空中退避が目的だろう。

 高山種が出てくると厄介だと感じた。

 ただでさえ、爆装して動きが重い。護衛の魔導師たちの働きに期待した。

 制空権確保を目的とした先行部隊がそろそろ空域に到達する頃合いだった。



「高山種。数、2!」



 迎撃の竜が出てきた。間違いなく観測塔から通報されていたのだ。

 大きく羽をはばたかせた、細見の竜。

 火山種よりも細く引き締まった体つき。

 ホバリングから一気に上昇。

 速い。

 【梓】の文字。



「梓隊、だとう」



 梓隊。【長槍】隊と同じくおもに高山種で構成された航空隊。

 開戦最初期は活躍していたが、地上掃射による操竜士の消耗により、前線から退いて久しい。

 高山種の高速特性と、【氷柱】と呼ばれる中距離迎撃魔法を使用するのが特徴。

 月丘の航空隊そのものが厄介極まりないのだが、その中でも梓隊は【氷柱】を搭乗員の殺傷に使う。

 【氷柱】の射撃精度はお粗末なもので火山種を傷つけることができない。

 その代り、散弾として使うことができたので、もっぱら地上攻撃に使用される。

 【長槍】隊が地上攻撃する際は【氷柱】を使うもののは空中戦にこの魔法は使用しなかった。

 制空隊がファイタースイープに移った。

 高速で上昇する高山種の行く手を塞ぐ。

 【氷柱】を放つも、火山種は増速し、破裂する前に一気に接近し、包囲する。



「速攻! 片づける!」



 高山種が加速して手が付けられなくなる前に叩く。

 高山種は格闘戦には向かない。一撃離脱を仕掛けてくる前に動きを封じ、飽和攻撃で確実に頭数を減らす算段だった。

 火球を高速で練り上げ、魔導師が叫ぶ。



「セット ネット・バインド!」



 デバイスの先端に環状魔法陣が描かれ、網目状の光を生み出し、その光は高山種の身体にまとわりつく。

 拘束魔法を仕掛ける間、火山種が火球を放つ。

 被弾するも効果は薄い。網を振り切ろうともがく間にに火山種の背中に乗った術法使いが止めの突撃術法をくみ上げる。

 瞬く間にアサルトエナジーによる無数の弾丸が高山種を襲った。

 操竜士の体が吹き飛び、付加属性である雷撃の効果により高山種が白目を剥いて、地上へ落下した。

 もう一匹の竜も同じように連撃を受け、空中で包囲して密度を高めた射撃魔法を撃ち放って始末する。

 高山種単体では数の差には勝てなかった。

 高山種を大方掃討し、一部の制空隊は梓隊が使っていた足場を地上掃射した。

 空中退避した他の高山種は撤退している。

 迎撃戦力を奪ったころになって、爆装した本隊がたどり着き、地上陣地と地下陣地があると思しき場所に、爆撃を始めた。

 



 

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2012/04/30 (Mon) 小説ログ Comment(0)
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