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infoseekの本サイト消滅につき旧作品が行方不明に…… 横浜みなとみらいを徘徊する記録
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2024/05/12 (Sun)
魔剣について

時期:01 と02の間 北辺戦争の1年くらい前

キーワード:小説 Kanon 駄弁り 改訂部分 SS 独自世界観 設定捏造 落ちがない
 練習


修正履歴
H23.8.21 初掲載
M1-1

北華 - 北川武具製造工廠


「おっさん。ありがとなー」

荷馬車の幌から男が一人飛び降りた。
まだ十代の面影を残しているが、よく鍛えられた身体で凛々しい面構えである。
荷馬車の御者が髭面を振り向け、彼をどなった。

「俺はまだおっさんじゃねー! 明日食堂に来たら覚えてろよ!」
「あーわかった。行っていいぞ」
「上から目線!?」

御者の前まで歩み寄ると、唐突に馬の尻を叩いた。
馬が後ろ足で立ち、甲高いいななきを上げたのはその直後の事である。
そのまま荷馬車は「覚えてろよ。こんちくしょう!」と捨て台詞を吐きながら小山を下っていった。

「話には聞いていたが、すごいな。これ」

北川武具製造工廠。武具、製鉄において北華でも屈指の生産量を誇る。
郊外の小山の一部を工廠にしているため、天気が良ければたたらから吹き出した炎を見ることができる。
緩やかに曲がりくねった道を抜けると、最初に見えたのは鈍く光る鏃だった。
工廠が休憩中なのか、辺りはとても静かである。
時折鳥のさえずりが聞こえる程度。
具足がこすれる音がした。道はL字に曲がり、櫓に挟まれている。
男が立っている場所は絶好の狙撃地点だった。
複数の視線が突き刺さった。

「兵科の相沢中尉だ。工科の北川少尉に会いに来た」

祐一は射貫く視線に痛みを感じながらも大声で用件を言いはなった。
目前の櫓がにわかに騒がしくなる。
照準は自分に注がれていることに変わりないため、下手な動きを取ることができなかった。
三方から狙いをつけられたら動くに動けない。
階段を駆け下りる音。しばらくしてL字の奥から見知った顔がにこやかに降りてきた。

「相沢か。待ってたぜ」

北川が片手を上げてそれぞれの櫓に向かって合図をすると、射貫くような視線が消えた。
祐一はようやくほっと胸をなで下ろしてため息をついた。

「狙撃されるかと思って緊張したぞ」

「そりゃあ悪いことしたな。でも決まりでね。工廠だから守りを固めておかないといけないんだ」

二人は並んで歩く。

「聖剣でも作ってるのか?」

祐一が茶化すつもりで口にすると、北川はにやりと笑みを浮かべ、

「お。よく知ってるねえ」

と、答えて見せた。

「マジか」

「ああ、本当だ。ひとつ訂正するなら、作っていた、だけど」

「なぜ過去形なんだ?」

「昔な。聖剣も魔剣も作っていたんだよ。切れ味が鋭くなるとか、衝撃効果があるとか、剣から火を噴くとか色々付加価値をつけて結構売れ筋の商品だった。先の戦争が始まるまでは」

先の戦争、と聞いて今度は相沢の頬が引きつるようにつり上がった。

「悲しいことだが、先の戦争では魔剣なんてなーんにも役に立たなかったんだよ」

北川はあっけらかんとして言った。
先の戦争とは北華と月丘との資源戦争を意味する。戦争後期に敵指揮官が後退戦術を採用したため、北華軍は多大な損害を被った。
ただし代償として土地は焦土となり、月丘という国家は消滅した。

「でも売り物だってことは聖剣魔剣の効果は保証されていたんだろ?」

「それがな。聖剣魔剣持ちって士官で家柄が良いだろ。特に魔剣には付加価値を上げるために魔導師に頼んで魔力を込めてもらっていたんだ。
 でも効果が保証される肝心の個人戦闘が起こらなかったんだよ」

「あーそれはしょうがないな。俺も戦史の講義で魔剣(笑)になってたのは正直男のロマンが消えた思いだったよ」

聖剣魔剣、それっておいしいの(笑)
というのが最新の評価である。
先の戦争により聖剣魔剣持ちだと狙撃の危険がある、という戦訓が得られた。
結果として聖剣魔剣はメンテナンスに手間がかかる割に実戦では使えない、という評価が下され、売り上げも一緒に落ち込んでいった。
北川はため息をついた。

「俺も同じこと考えた。俺は元々工科志望だったからそういうのは縁がないが、やっぱりロマンは大切だと思う」

「だろう? 俺は現実が世知辛く感じたぞ」

「相沢の親父さんって、『血染めの丘』での戦闘に参加していたんだろ? よく生き残れたな」

血染めの丘は倉田誠四朗率いる北華陸軍とリンディ・ハラオウン旗下の海兵隊に多大な出血を強いた防衛拠点を指した。
十五日間の戦いで全軍の十五%以上を死傷させられ、防衛部隊の撤退を許したとあり倉田誠四朗の評価を落とす結果になった。
逆に、現在はクラナドに亡命した多くの元月丘兵に対して高評価を与えているのは皮肉としか言いようがなかった。

「運が良かったんだよ。親父言ってたぞ。その後の首都攻略戦で負傷して野戦病院に担ぎ込まれたってな」

「狙撃されたのか?」

「いや、市街地で白兵戦をやったのが原因らしい」

「ちなみにうちの魔剣をもっていたりしたのか」

祐一は首を振る。
彼の父親は宝剣のたぐいは一切持っていなかった。はじめに北川が言ったように聖剣魔剣の類が戦争においては役に立たないことを知っていたのである。
そもそも聖剣魔剣といった魔道具に与するものが戦局を大きく左右することはないという歴史が存在し、北華が大量の兵士を育成する必要はなくなると言ってよい。かの魔道具が存在すれば、それだけで他国への抑止力になるのである。

「まあ、大量生産した模造品だったし微妙な効果しか得られなかったのも事実だったから。流行り廃りだろうなあ」

北川は工廠のてっぺんから吹き出す炎を見つめてつぶやく。
一瞬炎が赤く輝いてすぐに消えた。

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