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2024/05/12 (Sun)
ファランクス(改訂版)

タイトル:『六号街道制空戦<六・六> (II)』

「お姉ちゃん、がんばるからね」

キーワード:小説 Kanon Air ファランクス第一章改訂版 SS 独自世界観 ファンタジー 航空魔導師 航空偵察隊 アリシア・テスタロッサ 話数分割 術法使い 『鉄』部隊 想定外の運用 なかなか書き終わらない


※執筆時に城山三郎「死の誘導機」を読んでいたので所々似た表現を使っています。


修正履歴
H23.9.25 初掲載


ファランクス

-首都防衛戦-

5. 六号街道制空戦<六・六> (II)




アリシア・テスタロッサは防護服を身につけながら、無性にマルセラたちと話をしたくなった。

「三〇〇、か」

およそ三倍。全部隊で迎撃にあがっても数が足りていない。
おそらく総攻撃。敵も必死だ。
先輩も後輩も、友人たちも、そのうち誰かが死ぬかもしれない。死者の中に自分も含まれるかもしれない。
彼女たちの面影を、自分の胸の中にだけでも鮮明に焼き付けておきたかった。
空には、先発の『剣』部隊が舞い上がっていく。
まるで、太陽の中に吸い込まれるように、マルセラもあがっていくのが見えた。
彼女は一周旋回しながら手を振った。
それに気がついた歩兵や防空術法隊の面々、アリシアも手を振って返した。

「マルセラ、死なないで」

アリシアは強く祈った。
そして、準備を終えて『電』部隊にも上空待機命令が下った。
アリシアたちも青く透き通った空に駆けあがる。

「マルセラ、わたしは生きて、新しい経験をする。
 フェイト。
 お姉ちゃん、がんばるからね」



+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×



合流地点まであとわずかだった。
神尾晴子は、ずっとこちらの動向をうかがっている高山種を厄介に思いながらも、予定通りの航路をとった。
高山種は魔法の射程ギリギリ外を飛びながら、つかず離れずの距離を保っていた。
いざとなれば逃げ延びるだけの足を持っているからこそできる行動だ。
通報されたはずだ。自分が敵であればそうする。
間違いなく、敵は待ち伏せしているのだろう。
死地への水先案内人とは、非常に心が重かった。
晴子が母であるなら、子をかばってでも、敵につっかかるべきである。
だが、この母は、自分だけが助かり、子を死地へ追いやるためにつれていく。
晴子は戦闘に参加しない。
負傷し、戦域離脱を図る魔導師を陣地へ連れ帰る責務があった。
胸が痛んだ。幾人かは生き残り、幾人かは途中で死ぬ。
風だけがうなり声をあげている。
防護服により聴覚を確保されているだけあって、静かであった。
静けさには、重苦しさがこもっていた。
晴子の苦しみは、彼女とともに誘導する航空偵察隊のだれもの苦しみのようでもあった。
航空偵察隊は運命を運ぶ。
敵目標へ案内し、激戦が予想される戦場へ運び、ときには死地から救出する。
いつも、黙々と運ぶ。
悲しみを運ぶ。
苦しみを運ぶ。
誘い導くことが苦しみでもあるが、同時に他人の運命を抱えて通るようなところがある。
ともに行動するが、同調はできない。
激しさの中で、ひとりぼっちになってしまう。
運命共同体足り得なかった。
航空偵察隊は常に孤独である。
だれよりも長く飛ぶが、だれよりも一人で飛ばねばならなかった。



+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×




『鉄』部隊。
北華側名称ではアイアン。
重武装の対地攻撃部隊だ。
他の部隊と比べ防護服は分厚く、装甲と呼ぶにふさわしかった。
全身鎧を身につけて空を飛ぶと考えてよいだろう。
本来想定された彼らの運用方法は『長槍』部隊と同種のものだ。
『長槍』部隊は高山種、魔導師、術法使いを組み合わせ、長距離飛行による偵察、誘導、策敵、攻撃を行う。
方や『鉄』部隊は鱗鋼種と呼ばれる翼竜を使役し、魔導師、術法使いを組み合わせる。
鱗鋼種は翼竜の一種だが、性格はおとなしく動きは鈍重だ。
長所を上げるとすれば使役が容易なこと、そして鱗が鋼のように硬いことだ。
そして術法や魔法への耐性がある。
それは動きが遅いので、外敵から身を守るために獲得した能力だった。
重武装、重装甲の混合部隊。一応重戦竜部隊という区分に該当していた。
彼らの相手は歩兵だ。低空から術法使いの範囲攻撃で敵を駆逐する。鈍重とはいえ、騎馬よりは速いため、戦車キラーとしても期待されていた。
実際には会戦が生起したのは戦争初期においてで、あまり活躍していない。
『鉄』部隊そのものは防衛戦に投入されているが、支援部隊としてだった。
鱗鋼種も物資の大量積載が可能だったので、むしろ輸送面で喜ばれた。
だが、今、彼らは前線に向かおうとしていた。
想定されていた運用以外の行動ではあったが、待ちわびた前線勤務である。

「操竜士殿! 本当に行けるんでしょうな!」

防護服により聴覚が確保されているとはいえ、雑音が激しい。
したがって、話をしようにもお互い怒鳴り合うことになる。
鱗鋼種の重い体を無理矢理上空へと持っていこうとしていた。
鱗鋼種は八匹。
一匹あたりの搭乗員は以下の通りである。
・操竜士×1
・通信魔導師×1
・突撃術法使い×2
・爆薬使い×2
突撃術法使いがクイックチャージにより空気抵抗を低減している。
だが、ただでさえ過積載気味なので、上昇速度は非常に遅い。
激しい振動に見舞われ、操竜士以下搭乗員は、鱗鋼種の背中に据え付けた櫓にしがみついている。
目標高度まであと10分。

「行けます! 抵抗が激しいですが、行けます!」

操竜士も怒鳴り返した。
『鉄』部隊は、これまでほとんど前線にでていなかったことから装備の状態はよいままだった。
そして唯一投射機を備えていたが、空輸した補給物資を地上に投下するために使われた。
当初、発射筒へ機箱をくくりつけ、そのまま投下していたが、前方への運動エネルギーが大きく、木箱とその中身が粉砕されるという事故が相次いだ。
そのため、簡易ながら落下傘が考案された。
落下傘の利用価値は大きく、木箱が破壊されても中身は無事だった。
それならば、人間も投射してしまおうという話になり、航空魔導師以外の兵による空挺降下も検討されていたが、適切な補給ができないという問題から却下された。
しかし、すでに通常兵用の落下傘を試作してしまったため、物資用の落下傘とは別に、空挺降下用の落下傘が備え付けられていた。
作ってしまったものはしょうがないので、半ば強制的に備品にしてしまった。
隊員は重量が増える、といやがったが、見切り発車で生産した在庫を掃くために、防護服の上に落下傘まで装備していた。
よって普段以上に重装備だった。
彼らは、彼らのために、用意された戦場へとたどり着く。

「全機、投射用意」

予定高度に到達したことを確認した通信魔導師が、念話を使って他の竜に伝える。
術法使い、爆薬使いがそれぞれの準備を終える。

「軽りゅう弾、投射機装填完了。いつでもどうぞ」

「アサルトフレア準備完了!
 はや命令を!」

操竜士が鱗鋼種の翼を大きく羽ばたかせ、滞空状態を作り出す。
鍛え抜いた視力を頼りに、雲の切れ目に映る敵の大群を探した。
ゆっくり鱗鋼種の向きを変えながら、小さな黒点を凝視した。
米粒ほどの点。雲の切れ目から、様々な旗の幻影が見える。

「情報通りだな。
 照準合わせ」

「照準、補正値による修正。
 よし。追尾できています」

投射機を操作し微調整する。追尾がうまくいっていることに満足した操竜士は、射撃命令を発した。

「第一射、軽りゅう弾。放て!」

「爆薬隊了解。軽りゅう弾、発射」

彼らは命中を狙ってはいない。
敵航空隊の手前で爆発させる算段だ。
航空部隊だからこそ、空中狙撃がいかに難しいかを知っている。
軽りゅう弾を選択したのは、近弾での炸裂、破片効果を狙ってのことである。
今回放った弾丸には煙を立てやすい薬剤をしみこませてあった。

「第二射、アサルトフレア。放て!」

「よっしゃあ!!
 アサルトフレア、ってえええッッ!!」

そして、アサルトフレアは、突撃術法の中でも、範囲攻撃として数えられる。
攻撃範囲一帯を延焼させる効果を持つ。
軽りゅう弾の着弾後、空域にばらまかれた薬剤を延焼させるのが目的だった。

「第一射、弾着、今!」

「続いて第二射、……弾着、今!」



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