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2024/05/11 (Sat)
ファランクス(改訂版)

タイトル:『六号街道制空戦<六・六> (V)』

「敵中突破か。最悪だ」

キーワード:小説 Kanon Air ファランクス第一章改訂版 偽りの月版と展開が少し違います SS 独自世界観 ファンタジー でもドッグファイトじゃない 話数分割 書けた分だけアップ 航空戦終盤


※執筆時に城山三郎「死の誘導機」を読んでいたので所々似た表現を使っています。


修正履歴
H23.11.3 初掲載


ファランクス

-首都防衛戦-

8. 六号街道制空戦<六・六> (V)




落ちていく『鉄』部隊を尻目に、南方白亜種を主軸にした山側迂回部隊は、合流地点へと向かっていた。
既に火炎流星を使ってしまったことから、魔力封鎖を解除して積極的に通信を行っていた。
その中で、既に合流地点へ到着しているであろう六号街道側の魔導師隊の切迫した状況も断片的ではあるが把握していた。
山側迂回部隊は指揮官ヨルゲンの判断のもと、魔導師隊の救援に向かった。
念話による部隊内通信という限定的な手段ではあるが、ヨルゲンの判断は短時間で全部隊、全兵士の合意を得ることに成功していた。
これは部隊内の意思統一ができており、同時にかれらは本来優位に立てるはずの航空戦で劣勢にたたされていることへの怒りと復讐心を共通して抱いていた。
山側迂回部隊の戦力について以下に示す。
・南方白亜種 16匹
 すべて火炎流星、追尾流星、集束流星、追尾集束流星の射撃が可能
 各竜の乗員は操竜士、航法魔導師の二名
・操竜士 16名
・航法魔導師 16名
・護衛魔導師 48名
他の北華軍と同じく士気が高く、良質の装備を持っていた。
護衛魔導師は純粋な海軍航空魔導師隊所属ではなく、東西白亜の中央戦域『バルド』への派遣部隊から抽出しており、質の低下が顕著な航空魔導師隊とは別格の廉度を保っていた。
彼らが抜擢された要因には南方白亜種の護衛に慣れていたことも大きい。
西白亜との戦闘経験から北華海軍伝統の決闘精神が現実にそぐわないことを知っているため、かれら護衛魔導師は決して一対一では戦わない。
ヨルゲンは背後の航法魔導師に部隊内通信魔法の使用を求めた。

「エッカート、回線準備を」
「了解です、魔人殿。回線開きます」

すべての竜、すべての護衛魔導師の面前に二重環形の魔法陣が描かれる。
ヨルゲンは防護服を着たまま魔法陣に向けて口を開いた。

「全隊員に告ぐ。
 本隊が敵の迎撃に遭っている事は皆も知っているだろう。
 敵種はライトニング、ペネレート。
 敵は高速戦闘を得意とする。
 だが、恐れることはない。
 皆、『バルド』を覚えているか。
 我々は西の化け物と戦ってきた。そして生き残っている。
 月丘の魔導師が西の魔導師以上であったことがあるか。私はないと感じている。
 ここには『黄色』、そして『白兎』はいない。
 繰り返す。ここに『黄色』、そして『白兎』はいない。
 これより戦域に突入する。
 全隊、帯炎せよ」 



+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×



その戦闘では三つの不運に見舞われていた。
ひとつは『鉄』部隊による薬剤散布が一度きりだったことだ。
空域の煙幕が広がっている。
前回の薬剤散布がなされてから20分以上が経過していた。
『鉄』部隊が薬剤散布に失敗したのか、投射機に不具合があったのか、それとも敵と遭遇したのか。
理由はわからない。
だが、完全に煙幕が晴れる前に空域から脱出しなければならなかった。
ふたつめは、北華が、傭兵ではあるがベテラン航空魔導師を戦闘に投入していたことだ。
『電』『貫』部隊の数度の突入から癖を掴んでいた。
軸線をずらすための水平飛行を習得し、混乱極まった戦場でやってのける腕前を持った魔導師が多数いたことだ。
みっつめは、山側迂回部隊が突入したことだ。
月丘の一方的な攻撃という状況の中で翼竜隊の戦域乱入の結果、『貫』部隊に戦死者が出た。
最後尾を飛行していた魔導師だ。
彼は防護服ごと竜の顎に体を噛み砕かれて空に散華した。
一瞬の出来事だった。
『貫』部隊隊長のキタジマが部下が足りないことに気づいたのは、煙幕から出た後、後方を確認したときだった。
緩やかな曲線を描こうと進路を変えていた。
最後尾についていたナイアス少尉から報告があったのだ。

「ナイアス小隊、戦死1!
 竜に食われた!」

キタジマは犠牲が出たことに動揺した。
戦死者はおそらく即死。高速戦闘での死者の身元を判別するのは難しい状態だろう。
キタジマがもっとも恐れたのは竜が増援に現れたことだ。
竜は航空魔導師と比べて遥かに目が良い。
野生の竜は自分より遥かに速い速度で飛行する鳥類を捕獲する種類もいる。
火山種ではそういった話を聞かないが、複数種の竜を運用すること組織や国家はいくらでも存在したことから、飛行中に竜に食われたという報告を疑う要素は少ない。
加えて、キタジマの視野のすそに南方白亜種のまだら模様が移ったのだ。
しかも帯炎により赤い火の玉が浮かんでいる。
竜の総数は分からない。少なくとも3~4匹はいてもおかしくない。
北華が竜を含めた攻撃隊に対して単独行動を許すはずがなかったのだ。
キタジマは判断を迫られた。再突入か退避か。
再突入は可能だ。まだ煙幕の効果が完全に切れたわけではない。
今の北華航空魔導師よりも技量で勝っている今ならば、犠牲も少ないはずだ。
しかし無理はできない。ベテランの魔導師を消耗しているのは月丘も同じことだ。
もともと十六個戦隊いた航空隊は、長期の戦闘で『長槍』『剣』『電』『楯』『貫』『鉄』『梓』『甲』『乙』『錬』の十個まで減少している。
しかも『甲』『乙』『錬』は訓練中の部隊だった。
キタジマは自分たちの位置を確認する。
そして、退避するための選択肢がないことに気づいた。
彼らが帰還するためには煙幕を突っ切る必要があったのだ。
では、迂回路を取るか?
新手の竜が出現しなければその選択肢もありえた。だが、部隊の疲労を考慮すると、それは難しい選択だった。

「敵中突破か。最悪だ」

結果的には、キタジマは退避のために再突入するという選択肢を選んだ。
この決断をもうひとつの部隊『電』に伝えるべく念話を送った。
「気がついてくれ」と願った。
今が引き際だ。後は防空術法隊に任せればよい。
今はまだ、来る日までは『完全に』消耗してはならないのだ。

「大テスタロッサ。退いてくれよ」

お前が死ぬとこなんて見たくないんだ。



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