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2024/09/19 (Thu)
魔法少女リリカルなのはA's After Story

――Puppet Manipulator――

1. 『noise』




 赤黒い雨が降り止み、黄金色の砂上に醜悪な塊が転がっていた。
 彼は無感動に画面を見つめ、周囲に散在する仲間たちに念話を送った。
 目標を完全に破壊。生体感知器《バイオ・センサー》を稼働させたまま、数値のぶれを計測した。
 目立った変化はなく、屍肉を漁る小動物や昆虫類が姿を見せただけだった。
 陽動にあたっていた傀儡《くぐつ》兵が続々と集結する。
 最も体格が良く右肩に円筒形のタンクを背負った傀儡兵が初めに着地し、無機質な赤茶色の瞳を彼に向けた。
 岩山が発する熱赤外線を三つの補助感知器《サブ・センサー》を通じて解析し、本来の形状を傀儡兵に認識させた。

「擬態解除だ。ジェミニ」

 傀儡兵が彼の名を呼んだ。コントラバスを想像させる太く低い声だった。

「了解《イエス・サー》、エクゼキュータント」

 彼はもう一度、計測値に目を通してから言った。

「擬態解除。伸脚に注意」

 岩山が明滅し、傀儡兵の目に砂嵐が映る。小刻みな振動が地を揺るがし砂面が盛り上がった。
 影に覆われて傀儡兵は頂上を見上げながら、砂塵から逃れようと後退る。
 巨大な多脚砲台が姿を現わした。
 全長八メートルに及ぶ多脚砲台《ジェミニ》が現れた。
 設計者自身が『巨大なカブトムシ』と評したように、とさかの位置に全長約二メートルの主砲が取り付けられていた。
 砲塔の可動部は円状の装甲で保護され、その側面に六基の十二ミリ連射砲が設置されている。
 同様の連射砲が頭頂部にも装備されていた。
 また頭頂部には複眼を模した感知器が露出しており、側に近づいて覗き込むと一千個以上の小さな瞳が、一斉にこちらを向くのである。
 赤色の瞳孔が収縮する様子は、かなり異様だった。
 移動は六本の脚を以て行う。昆虫のように歩行することで、どんな劣悪な地形でも踏破可能である。
 さらに三つ叉に別れた足裏には幾つもの球が埋め込まれている。
 魔力と電磁気による非接触方式を採用しているため、平らな面では滑るように動く事ができた。
 折り畳んでいた脚を伸ばして砂が落ちきると、ジェミニは開放感に包まれた。
 外部積載物がゼロとなっただけであるが、軽さが心地よい。
 しかし、彼はその変化をノイズとして検出し、戸惑った。

「どうした。異常でも見つかったのか」
「いえ、問題ありません」

 変化を気取られぬよう即答する。傀儡兵には気づいた様子はなく、続々と集結する仲間に注意を向けた。

「エクゼ、ジェミニ。ヒバリ達はまだか?」

 アリスの声だった。毅然とした口調で気位の高さを窺わせていた。
 エンジ色を基調として曲線を多用した機体は、女性らしさを強調している。
 細い両腕は銀色の装甲に覆われ、銃型デバイスと槍型デバイス《ランドスピア》を装備している。
 アリスは、まだ、と短く答えた傀儡兵《エクゼ》から目をそらして、背後の影を顧みた。

「サイレン」

 装甲を切詰めた体は漆黒に染まり、身の丈と変わらぬ長さの剣を持った機体。
 サイレンは威力偵察を主に行い、状況に応じて拠点制圧を可能とした傀儡兵である。
 サイレンは言葉を発しなかった。無言で一点を見つめたまま微動だにしない。
 視線の先には一陣の砂塵が吹き荒れていた。
 ジェミニがそれに気づく。彼は識別信号と薄らと見える魔力光を確認すると、傀儡兵に思念通話を行った。

「ヒバリ、ジル、続いてガンスリンガー、接近」

 青白い魔力光。彼らを束ねるヒバリ・F《ファティマ》・ガトリングから発せられたものだった。
 ヒバリの外見は傀儡兵と同じく無骨な姿で、右手に幼女がしがみついていた。
 ぴたりと背後について黒いライフルを抱えたガンスリンガーが推進している。
 アリスやエクゼの目にはっきりと映った時、ヒバリの機体が加速を止めて砂面に足をつけた。
 続いてガンスリンガーも着地し、摩擦力を利用して制動をかける。地面を抉りながら腰だめの姿勢で停止した。

「みんな、ただいまだね」

 手から飛び降りた幼女《ジル》が言った。白いワンピースに、肩幅よりも大きな麦わら帽子を被っていて目元が見えない。強烈な紫外線にも関わらず、白い肌は全く焼けていなかった。
 ジェミニの目にはジルの肌を覆う魔力の層が映っていた。防護服《バリアジャケット》と同じ機能を持つ防護被膜《バリアコーティング》である。
 ただし対魔法効果は薄く、生体に害をなす紫外線や熱を遮断する目的で用いられている。
 ジルがジェミニの脚にしがみつくと、ヒバリの機体が膝を突いて魔力の残滓《ざんし》を排気した。

「ガンスリンガー、及びジル・オートマン、ヒバリ・F《ファティマ》・ガトリングは任務達成につき帰還した」

 ライフルを肩に担いだガンスリンガーが軽妙な口調で言う。

「派手にやらかしましたねえ、旦那」

 血塊に集る獣を横目にエクゼに言い寄り、馴れ馴れしく肩を叩く。

「報告を済ませろ、ガンスリンガー」
「へー、へー。俺の分は今送りますわ。それと、ヒバリ、もう動けるか? 堅物の旦那が戦闘結果をご所望だ」

 この程度の軽口で気を悪くするエクゼではなかったが、命令系統の上下を正すべく彼に面と向かった。
 機微を感じとったガンスリンガーが後ろへ飛び退り、へらへらと笑い声を上げて他の二人を見やる。
 アリスはガンスリンガーに鋭い視線を向け、サイレンは無反応だった。
 ジェミニは三つの戦闘結果を受け取り、戦術デバイスの解析にかける。
 その間、ガンスリンガーの戦闘ログをのぞき見て、不可解な気分に陥った。
 状況開始前はジルとヒバリ相手にひたすら無駄口を叩いていた。
 傀儡兵らしからぬ不用意な言動、思考を司るインテリジェントデバイスが壊れたとしか考えられない。
 しかし、異常を示す値は見つからなかった。

「待たせたね、エクゼキュータント」

 ヒバリが立ち上がった。
 魔力光と同じく青色の機体。頭部前面に四つ、両耳の側、首の根から伸びたウサギの耳のような突起の先端に一つずつ、計八つの瞳を持つ。
 繊細な動きを正確に追跡《トレース》するため、彼女自身の腕が腰から伸びていた。
 声に疲労感が出ていた。アリスが気遣って声をかけたが、首を振ってやんわりと断る。
 傀儡兵が平均してAランクの力を持つ事に対して、ヒバリの魔導師としての能力はCランクにすぎなかった。
 いくら強化されているとはいえ、戦闘能力を持たないジルがAAランク相当の力を持つ事もあってか、多少の無理は目を瞑る。そんな気負いがヒバリにはあった。
 彼女はミッドチルダの人である。
 身体を包み込む機工服にはストレージデバイスが組み込まれており、着用者の能力を強化している。
 運用には極度の疲労と緊張を呼ぶものの、どれだけ性能を引き出す事ができるのか、限界を突破する事が彼女に課せられた仕事だった。

「ジェミニ、戦闘データの解析終了まで後どれくらいかかる?」
「三分で完了します。さらに各デバイスの差分プログラム生成、適用《アップデート》に五分頂きます」
「わかった。書き換え中の防御はいつものように。ジェミニ、お願いね」
「了解《イエス・サー》」

 ジェミニは砲塔を左右に振った。
 補助として搭載されたストレージデバイスの一部を使用して、中距離探索魔法《エリアサーチ》を起動する。
 旋回部上方の孔《あな》から魔力で生成した端末を射出し、八方向へ飛ばした。
 驚異となりうる巨大生物の発見、及び同系統の探索魔法への目眩ましが目的である。
 時空管理局に見つかるのはまずいからね、とヒバリが呟く。

「ジル、ちょっといいかな」

 ヒバリが手招きすると、ジルが小さな身体で駆け寄ってきた。
 無骨な脚に手を触れて上目遣いで様子を窺った。

「おじいさまと話がしたいんだ。ポートを開けられる?」

 コクリ、とジルが頷く。ポケットから一枚のカードを取り出した。

「Leibniz《ライプニッツ》」

 カードが黒い魔力光に包まれ魔法杖に変化した。
 ヒバリの脚に当てた手はそのままに、空いた手で杖を地面に突立てる。ジルの身体を中心に環状の魔法陣が描かれる。

「使用可能ポート検索……完了。パスのアルゴリズムはどれにするの?」
「ナの8番でお願い」
「次元間ポート接続。暗号鍵《パス》のアルゴリズムにナの8番を使用。次元間通信、ガトリング博士との回線を開きます」

 他人の魔法を介して異次元と接続した時、ヒバリは脳をかき回されるような頭痛に顔をしかめた。
 苦痛は一瞬で終わり、意識が対象とする魔導師と繋がる高揚感に脳を支配される。
 暗号化により音域が狭められているものの、注意しなければ分からない程度である。ヒバリは祖父の声を聞いて喜色ばんだ声を上げた。
 ジェミニがポートを監視しようとして、ガンスリンガーが制止の声を上げた。

「おいおい、野暮ったい事は無しにしようぜ」

 機械的な声で解析終了と告げた後で、ジェミニは念話でガンスリンガーに疑問を投げかける。

「野暮とは何か?」
「じいさんとの話を盗み聞きすることだよ。ヒバリだってまだまだ家族に甘えたい年頃だ。二人だけの会話を楽しませてやれ」
「ですが、ジルを介しますので記録《ログ》が残ります。これもガンスリンガー《あなた》の言う野暮という事になるのでは?」
「記録に残るのは仕方ないさ。義務だからな。だが、聞えていない振りをする気遣いが大切なんだよ。ヒトの心は零と一だけでは解答できないってことさ」
「理解しかねます」

 念話越しにガンスリンガーの苦笑まじりの声を聞く。
 もう一度デバイスの動作記録を調べたが、やはりエラーは見つからなかった。

「差分プログラム生成完了。適用《アップデート》開始」

 ジェミニが告げた。
 すると傀儡兵が次々と動きを止めていった。
 確実に書き換えを行うため、該当プログラムは周辺の制御系から切り離される。
 この間、傀儡兵は最低限の応答しかできない。ヒバリのデバイスにも差分適用が為されている。
 しかし念話自体は彼女自身の魔力で行っているため、傀儡兵のよう動かなくなる事は無かった。
 ジルは生身の魔導師なのでこの影響を受けない。
 修正箇所が最も少なかったのはエクゼだった。話を終えたヒバリの傍に歩み寄ると、魔法陣がライプニッツの中に消えた。
 ジルが彼に気づいて振り向いた。その拍子に帽子がずれ、慌てて両端を掴んで麦わら帽子を押さえつけた。
 顔を見られたと思いこみ、うつむいて黙りこくってしまった。
 支えを失ったライプニッツが砂上に転がった。

「楽しそうだな」

 エクゼがヒバリに声をかけた。
 ヒバリは大きく頷き、手振り身振りを交えて祖父がどんな事を話したのか、エクゼに伝える。
 時折合いの手を入れながら、彼にはヒバリの表情が容易に想像できた。

「そういえば、おじいさまが気になる事を口にしていました」

 急に声の調子が落ちる。書き換えを終えたサイレンが頭《かぶり》を振った。

「闇の書に動きがあった、と」
「ベルカの騎士どもを動かしていたあれか」

 エクゼが苦々しく言った。彼は武装局員を交えて守護騎士と一度刃を交えていた。
 その時の事を思い返しながら、同じく戦闘に加わっていたガンスリンガーを一瞥する。

「武装局員を盾にして逃げた時の奴ね」
「あれは戦術的撤退だ」
「へーへー。確かに最善の判断ではありましたが」

 ガンスリンガーは武装局員の足を打ち抜いた感触を思い出しながら言った。

「時空管理局が闇の書に気を取られている隙に帰還する事を具申します」

 アリスが割って入る。書き換えを終えたばかりで可動部分の確認を行っている最中だった。

「いつ彼らに発見されるとも限りません。どちらにしろ一つの次元に長く留まる事は危険です」

 ガンスリンガーが空を見上げる。
 天蓋を遮る物は何もなく、土地は開け、数十キロメートル先まで見通す事ができる。
 つまり探索能力に優れた魔導師ならばたちどころに目標を発見し、こちらが格闘戦に持ち込む前に広域攻撃魔法で勝負を決されてしまう。
 ヒト型傀儡兵は複雑戦場においてのみ有用だった。

「俺は賛成だな。こんなだだっ広いところでドンパチかますのは、こちらの不利だ。そう思うだろ、旦那?」
「その通りだ」

 エクゼが同意すると、調子に乗ったガンスリンガーが口笛を鳴らした。
 実際には合成された音声情報に過ぎなかったが、本当に彼が吹いたように聞えた。
 ヒバリがジルに目を落として、他の者に意見を求める。

「同意」

サイレンとジェミニが同時に答える。

「わかった。時空管理局の動きが気になるけど、おじいさまの許へ帰還します」

 するとジルが顔を上げて口元をほころばせていた。ライプニッツを拾い上げ、砂を払った。

「ジル、お願い」
「うん!」

 元気良い返事だった。

「やれやれ、現金なもんだ」

 急に活発になったジルを見て、ガンスリンガーがぽつりと呟いた。
 足下に描かれた魔法陣へ意識を向けると、転送先の座標値が流れ込んでくるのが分かった。
 転送用のモジュールを接続し魔力の供給を行い、ジルの詠唱と同期を始める。

「中間、及び転送先ポート設定完了、航路偽装《ダミー》プログラム射出……成功。暗号鍵《パス》自動設定、各モジュールとの接続……成功」
「Synchronized exactly. Stand by ready」

 魔法陣が黒く発光し、ライプニッツが準備を終えた事を告げた。全員が意識を集中する。

「次元転送開始」
「Transporter《トランスポーター》」

 黒光が周囲に及び、ジェミニの巨体をも包みこんだ。
 それぞれの周囲にミッドチルダ文字がくまなく描かれ、徐々に身体が透き通ってゆく。
 次元転送は最低二回の転送を行う。
 あらかじめ確保しておいたバッファに被転送物の構成情報をため込み、座標値の書き換えてゆく。
 一旦全ての情報を中間ポートに出現させ、目的地へ向けて再度書き換えを行う。
 転送先が遠くなればなるほど、介在する中間ポートの数と座標書き換えの回数が増えてゆくのである。
 過去数年を振り返っても転送事故は起きていなかった。
 今回も無事に帰還する、そのはずだった。
 時同じくして、時空管理局巡航L級八番艦アースラが、暴走する闇の書防衛プログラムに対してアルカンシェルによる砲撃を行った。
 アルカンシェルは発動地点を中心に百数十キロ範囲の空間を歪曲させながら反応消滅を起させる魔導砲である。
 周辺の近似値空間に連続して数マイクロ秒間の次元震を引き起こし、次元間の相対座標を狂わせるという副作用を持っていた。
 通常ならば即座に修復が行われる。
 しかしごく稀に、歪曲した瞬間に実行中だった魔法が異常をきたすという事象が報告されていたのである。
 もちろんアルカンシェル使用の可能性が出た場合、周辺のポート利用が制限される。
 しかし不正利用を考える輩はどこの世界にもいるものである。彼らがそうだった。
 運悪く、中間ポートが存在する近似値世界に予測不可能な次元歪曲が生じてしまった。
 座標値の異常は修復不可能なものであり、その結果転送事故が発生。
 彼らは次元の狭間へと弾き飛ばされてしまったのである。
 転送先は不明。時間軸すら正常とは言えない。
 偽装プログラムが災いしてこの事故に気づいた者はいなかった。
 ただ一人、彼らの帰還を待っていたベネジェット・ガトリング博士を除いて。















 『Intro』に引き続き『noise』を読んで頂きありがとうございます。
 前話に比べて改行を増やしましたので、幾分かは読みやすくなっているはずです。
(昔に戻ったとも言いますが)
 とはいえ他の作家様に比べて圧倒的に何かが足りないわけで……。

 ジェミニのデバイスに関しては、組み込み型チップのように扱っているため大量に出てきます。
 魔法の描写はNanohaWiki等や、JGJ様及び他の投稿作家様の文章を参考にさせて頂いています。
 しかし想像で書いた部分が多く、かなり嘘を述べているかも知れません。
 特にアルカンシェルの辺りが……です。
 一応オリジナル魔法もあります。しかし現時点では多く考えていない事もあり、できるだけ既存のものを利用していこうと考えています。
 もちろん作中にて使用した場合、こちらにて説明するつもりですが、あくまで捕捉。
 ちなみに前話に登場した『彼』とは多脚砲台の事です。クロノではありません。
 何でこいつが使えるの?とも思うでしょうが、それについては追々説明します。


 ……なのはたちの登場はもう少し待って下さい。

 おかしなところがあったら指摘して下さい。また、感想もいただければ幸いです。

二〇〇六年三月十六日 流鳴

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