忍者ブログ
infoseekの本サイト消滅につき旧作品が行方不明に…… 横浜みなとみらいを徘徊する記録
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2024/09/20 (Fri)
魔法少女リリカルなのはA's After Story

――Puppet Manipulator――

2. 『strayer』
全身の痛みで目が覚めた。
淡青色に染まった視野が無数の文字で埋め尽くされている。
目の前を緑色の文字が何度も瞬いていた。
突然、瞳に照射された光に驚いて目を閉じてしまう。
目蓋越しに点滅し続ける光を感じ、徐々に意識がはっきりとするにつれて、体内を循環する魔力の流れを想像できるようになった。
ヒバリはデバイスと感覚をつなげる事に集中した。

「リアクター」
「Yes. My well-beloved master《親愛なるわがあるじよ》, came to your senses at this time of day《遅いお目覚めですな》.」

頭に流れ込んできたのは無機質で皮肉めいた口調だった。
ストレージデバイスに付与された簡易応答プログラムに過ぎないにもかかわらず、不遜な物言いをした。
ヒバリはプログラムの作成者がガンスリンガーであることを思い出し、苦笑するほか無かった。
ひねくれた気の利かせ方に、彼が人間であるかのような錯覚を覚えずにはいられなかった。

「Master have its beginning with uprising《まずは起きられよ》, therefore see how matters stand《しかして事態を把握されるがよい》.」
「事態?」

聞き返しながら、ヒバリは周囲を見回した。
ほこりっぽい地下室ではなく、森の中にいたのである。
柔らかい土の感触に満ちていた。
あまりの驚きに声を上げそうになり、慌てて口を塞ぐ。
その瞬間、網膜操作が行われた事にも気が付かなかった。
リアクターが脈拍の上昇を告げた。
上体を起し、濡れた土を掴んで手のひらでもてあそんだが、本物であることを自覚せざるおえなかった。
石をどかせば何十匹もの昆虫が身体を寄せ合っていた眠りについていた。

脚に力を込めた。
機工服の重量で足下が沈み込んだ。
関節部の制御系からはき出された数値を確かめながら、慎重に出力を絞って立ち上がった。
疲労を差し引いたとしても信じられないほど動きが軽い。
この次元に最適化が為されている事は明白だった。
魔法の実行権限はあくまでデバイスの持ち主にある。
おそらく意識が戻ると同時にプログラムの調整を施したのだろう。
そして周囲には人気がなかった。
見慣れた仲間の姿もなかった。

「ここは、どこ?」

ヒバリは顔をひきつらせながら呟いていた。
リアクターが無情な回答を示す。
ミッドチルダから遠く離れた世界。
幸い、魔力の痕跡が至るところにあり、時空管理局の物と思しきゲートもある。
ヒバリが気を失っていた間に、リアクターが最寄りの中間ポートに侵入して得た情報だった。

「ヒバリ、落着け。もっと冷静になれ。もっとクールになるんだ」

呪詛のように繰り返したが、状況が好転するわけではなかった。

「転送事故だよね? これって」

転送事故。
遙かに低確率なはずの、その言葉を反芻した。
信じたくなかった。
が、数字は嘘をつかない。
リアクターよりもたらされた情報がヒバリの楽観視を許さなかったのである。
もちろん本局の管理下において転送事故は発生していた。
十一年前に発生した闇の書暴走事件では、闇の書を保管輸送していた艦隊二番艦「エスティア」のコントロールが奪われ、味方に主砲を向けた。
当時の艦隊司令ギル・グレアム提督の決断により、これを破壊。
エスティアに残留し、詳細な状況を送り続けていた艦長クライド・ハラオウンは、二度と帰らなかった。
同時に観測された微弱な次元震動による人的被害はなく、データの紛失、一部の中間ポートが過負荷に耐えきれず故障した事例が報告されている。
ヒバリは無理矢理気持を切り換えた。
とにかく仲間の安否を確認する事が優先だった。

「せめてジルがいれば……」

山中を捜索しながら、はにかみやの少女の名を口にしていた。
ヒバリは魔法を行使した探索、防御、砲撃、打撃、補助、結界、回復のいずれも苦手だった。
魔力を制御し動きをつくり出す事には人並みならぬものがあったが、それとてAランク以上の魔導師なら普通にできることだった。
加えて魔力資質が貧弱なのである。
故に、一度に放出できる魔力も限られていた。
それは高位保持者との絶対的な差だった。
自分の魔力資質を呪った事もあったが、どうにかなる問題ではなかった。
現地の人間に見つからぬよう慎重を期した捜索は二時間に及んだ。
しかし陽が落ち、空が闇色に染まるに連れてヒバリの疲労が極に達しようとしていた。

「これ以上は保たない。リアクター、除装する」
「All right. Straitjacket unlock《拘束解除》.」

各部の排気口から白煙が噴出した。
胸に埋め込まれた拳大のボルトを固定する鍵が外れた。
四辺を穿ったネジが取れ、装甲が雨傘のように開いた。
同時に腕と腰に取り付けられた魔力の枷が開放される。
自由になった腕に力を込め、下半身を引き抜いた。
そのまま地面に降りて抜け殻を見上げた。

「change suspend mode《待機状態へ移行》」

声がしてから、機体が蛍の群れのように淡く青い光の粒に変わってゆく。
そして粒子はヒバリの首許に収束し、アクアマリンの小粒が埋め込まれたネックレスに変化した。
開放感に浸ったのも束の間、一見少年のようにもみえる顔に苦悶の表情が浮かぶ。
可愛いというよりは綺麗な造型である。それ故に、歪んだ面貌が重い疲れを訴えていた。

「座ったらお終いだ」

枯れ枝を大きく広げた樹木にもたれかかりながら呟き、額の汗をぬぐった。
忙しなく肩を上下させなければ呼吸が続かなかった。
薄らと立ちこめる雲に、一カ所だけ月光が灯っていた。
大気を揺るがす羽音が近づいてきた。
とっさに木陰へと身を潜め、それをのぞき見た。

箱が浮いていた。

上部から飛び出た翼が回転し、尻尾の部分には機体を安定させるためのローターがついている。
いかにも燃費が悪そうな飛行物体だった。
驚いた事に何の魔力も感じられないのである。
魔法による飛行術は、飛びたいという幻想を叶えるため複雑怪奇な式を記述しなければならない。
現在の魔導師は太古に構築されたものを利用しているにすぎず、魔力資質が貧弱でも比較的簡単に実現できる。
使用者の資質にも因るのだが、手のひらサイズの電子回路で近似値世界の物質を転送する事だって可能なのである。
現在のミッドチルダは魔法と機械を複合した技術が身近なものとなっている。
が、この世界には魔法がない。
いや、無いと断言するのは語弊があるだろう。
そもそも、どの世界にも魔導師、魔法使いの類はいるものである。
公に認知されているか、そうでないかの違いにすぎない。

「ここは魔法が発達しなかった、もしくは根絶やしにされた世界か。
 奇蹟の無い世界、ここは魔導師にとっての地獄だな。……って」

わたしは何を考えているんだ。
と、つつましい胸元に手を置いて乾いた笑い声を上げた。
はじめのうちは声が出ていたものの、横隔膜が伸縮するたびに腹の肉が引きつり、気が付けばむせかえっていた。
その間、ほとんど息をすることができなかった。
苦しい。
次から次へと腹の底から湧きおこる吐き気に耐え、欠乏した酸素を求めて喘がなければならなかった。
まったく胃の中身《よけいなもの》まで再現してくれるなんて!
転送魔法の忠実すぎる再現性を呪った。しかしそうでなければ意味を持たない数値の羅列《ノイズ》として存在を消去されていたかもしれなかったのである。
涙が出て止まらなかったが、無心になって笑う事をやめたらそれも無くなった。
それでも心に生まれた暗闇を払拭することができない。
彼女《ヒバリ》はまだ十三歳の少女に過ぎなかった。

「おじいさま……」

虚空を見上げ寂しさを紛らわすように祖父の姿を思い浮かべた。
その時である。
不意に、前方の茂みから物音が生じた。
びっくりして肩をふるわせたヒバリだったが、すぐさま身構え、下半身に力を込めた。
音が忙しなく聞え、何者かが姿を現わすのを待った。
緊張で喉が渇いてくる。
目尻を鋭くつり上げ呼吸を整える。
できる限り息をひそめ、相手の出会い頭を叩こうと目蓋を閉じ、タイミングを合わせて肺いっぱいに空気を充たす。
小枝が踏み折られた。
雲が途切れて、月明かりが周囲を照らした。
樹木の影から、茂みをかきわけて誰かが姿をあらわした。
足を踏み出し、一気に間合いを詰める。
そうして、ようやく誰なのかがわかった。
ジル・オートマンだった。
彼女は白く、幼い身体を月下に晒す。
淡い緋《あけ》に色づいた唇が微かに開かれており、小さな歯をのぞかせていた。
ヒバリは嬉しくてジルの許へ駆け寄っていた。
膝をついて抱きしめようとした。
その時、緊張感が一気に解けてしまったせいか、足をもつれさせてジルの側に倒れ伏してしまった。
ぬかるんだ地面に頭から突っこみ、ヒバリの汗だらけだった身体が泥まみれになってしまった。
隣でジルが状況を飲み込みきれず、首を傾げて立ち尽くしていた。
泥が跳ねたにもかかわらず、一つの汚れもないワンピースは新品そのものだった。
その点、ジルの防護被膜は完璧だった。

「ううう、よかった」

ヒバリは真っ黒な顔を上げてジルを見やった。
声が震えて視界もぼやけていたが、何より八歳の少女が無事だった事が安堵をもたらした。
今度こそ全身から力が抜けた。
代わりに筋肉が強張り、鈍い強烈な痛みが次々と襲い掛ってきた。
形の良い眉を歪めて苦痛に耐えていたが、少しでも動かすと節々に電撃が走った。
反射で身体を丸めて痛みから逃れようとしたのだが、これが逆効果で声にならない悲鳴を上げてしまった。

「ヒバリ、それ楽しいの?」

ジルは麦わら帽子の端を押さえながら言った。
小刻みに震えては、間抜けなうめき声を出すヒバリは見ていて滑稽である。
だから、面白いなら真似してみようと、ジルは本気で考えていた。
かろうじて見える口元が綻び、その場でしゃがんで何度もヒバリをつついた。
どんな反応を示すのか確かめる必要があったからだ。
ヒバリは「わ」とか、「ひぁ」とか、「やめっ」とか、「ぅきゅ」などといった鳴声を上げて存分にジルを楽しませた。
五分ほど続けてようやく飽きたのか、解放されたヒバリは伏せたまま荒い息をついていた。

「ジ、ジ、ル……よかっ、ね」
「みんなはどこにいっちゃったの?」
「……それ、わたしも知りたいよ」

ようやく落着いたヒバリは、顎を前に突き出しながら答える。
片目を瞑ってジルの表情を窺おうとしたが、絶妙な角度で日除けが邪魔だった。
再度、首の動く範囲で挑戦したが無駄に終わった。
ジルは自分の眼や額が人目に晒される事を極端に恥ずかしがるのだ。

「念話は試したの?」
「そんな魔力と体力が残ってたらとっくに立ち上がってるっての」
「ヒバリって……こういうとき……ホント、使えないね」
「言っとけ」

ヒバリが大袈裟にため息をつく。
ジルの毒と、ころころとした笑顔に少しだけ力が湧いた。

「ボクが連絡を取ってみるから。ヒバリは休んでてね」
「りょーかい」

ヒバリはなげやりに応えてから、もう一度視線をやった。
ジルが肩まで伸びたもみあげを指先で弄ぶのが見える。
彼女が念話や通信端末を弄る時の癖だった。

「連絡ついたよ、ヒバリ」

ヒバリは声にならない吐息を漏らして、首だけをジルに向けた。

「まずいい知らせから。今、アリスとエクゼキュータントがこっちに向かってるよ。どちらも損傷なしだね。
 でもジェミニは要修理、駆動部破損と機関の出力不足で動けないって。
 博士の擬態プログラムは完璧だから見つかる事はないだろうけど」
「悪い知らせは?」
「ガンスリンガーとサイレンの連絡がつかないの。この世界に転送されたのは確実なんだけど、居場所が分からない。そんなに遠いわけじゃないんだけど……」

ジルが不安げに声を震わせた。
ヒバリは「大丈夫だって、うまくやってみせるさ」、とガンスリンガーが得意げに話す様を思い浮かべていた。
すぐにも現れて軽口を叩くんじゃないか、そんな気分にさせられる。
彼については楽観的な結果しか想像できなかった。
心配なのはサイレンである。
彼のインテリジェントデバイスは組まれてから十ヶ月しか経過していない。
擬態年齢は二十歳前後に設定されているとはいえ、中身は赤子も同然だった。

「ジル、大丈夫だよ。ガンスリンガーもサイレンも大丈夫だから」

根拠のない慰めだった。

「魔力の探知はできる? 完全擬態だと判らないけど、周囲の状況が知りたい」
「で、できるよ」
「それと今日っていつなのかな。この世界の暦なんて知らないし、あれから何日経ったのか。
 絶対おじいさまは心配してるよね」
「ん、わかった。ライプニッツ、お願い」
「Yes, sir. Today is Jan 14 according to the calendar《暦の上では一月二十四日》, XFER 288 times.《転送回数二八八回》」
「二百八十八回っ!? しかも一ヶ月も経ってる!」
「しっ、声が大きい。ボクの方が年上みたいだよ」
「あ、ごめん……」

転送魔法による長距離移動は始点と終点で時差が生じる。
いくら情報の書き換えが高速で行われるにしても、物理的限界を超える事はできない。
完全にデータ化された身体が次元の狭間を一ヶ月間漂い、ポートというポートをたらい回しにされた挙げ句、この世界に放り出されたのである。
下手をすれば無限ループに、もしくは虚数空間に陥っていたかも知れない。と思うと、安心すると共に恐怖におののいた。
槍型デバイス《ランドスピア》を脇に抱えたアリスが合流したのは、かつて魔導学院の初等部にいた頃の記憶に触れようとした時だった。
重厚かつ不気味で、静謐な駆動音が、黒みを帯びた赤色の体から発せられていた。
アリスは真紅の瞳をヒバリたちに向けて、何度も明滅させる。
機械にしては細くしなやかな腕を伸ばし、未だ動けずにいたヒバリに手をさしのべた。

「主よ、ご無事でありましょうか」

従順な声だった。
合成された音声にもかかわらず、女性のそれとわかる。
それも凛とした意志の強さを感じさせるものだ。
ヒバリは傲岸不遜な受け答えしか収録されていない自らのデバイスに、彼女を見習ってもらいたいと思ったが、すぐにその考えを打ち払った。
これ《リアクター》はこれで既に完成品なのだから。

「怪我はこれと言って無いよ」

そして休息が必要なぐらいかな、と付け足す。
ヒバリは腕にゆっくりと力を込めて、仰向けに転がった。
泥だらけの身体を月光に晒した。
胸が小刻みに、そして普段よりも少しだけ早く上下していた。

「それならば構いません。こちらへ向かう間、索敵を致しましたが、周囲に敵もしくは現地人は発見できませんでした」

ヒバリがアリスの手につかまって上体を起す。

「この場所――海鳴と申しましたか――にはゲートが存在し、彼らの追跡対象である我々が転送された事は既に知れておりましょう。
いずれ武装局員並びに、現地の嘱託魔導師を我等に差し向けてくるはずです。……いかがいたしますか」
「不測の事態につき撤退しますってのが一番だけど、サイレンとガンスリンガーを見捨てて還るわけにはいかないからね。特にサイレンは……。
 我々は引き続き本来の任務、つまりデータ収集を続行。
ただし合流出来次第、おじいさまの許へ帰還します」

自分を納得させるようにヒバリは言った。

「了解」

アリスが短く言葉を切った。
ヒバリを助け起すと、海の見える方角へと目を向けた。
ヒバリが胸をそらして大きく息を吸った時、誰かの念話を受信した。
声の調子からエクゼだと判断し、ゆっくりと呼気を吐きながらまぶたを閉じた。
念話は特定の相手に思考を繋げるものである。
注意しなければ細い弦に枝がついてしまうことがある。
考えている事が相手に駄々漏れになるのだ。
スイッチのオンオフで対処できるのだが、極度に疲労していると稀に忘れてしまう事がある。
そのとき、意識に滑り込むようにして聞き慣れた雑音を耳にした。
即座にスイッチを倒して接続する。

「っと、エクゼ?」
「……ヒバリか。良かった、無事であったか」
「ええ。こっちは大丈夫。ジルとアリスもいるしね。エクゼ、あなたの損傷はどうなの?」
「出力が僅かに落ちているが問題ない、許容範囲内だ。ヒバリよ、そちらには軽薄な奴とサイレンはおらんのか?  先程から何度も検索をかけているのだが応答がないのだ」
「ガンスリンガー、サイレンは消息不明。多分、別の場所に落ちてしまったのだと思う。この世界にはいるんだよね?」

ジルに確認する。
が、ジルは他事に気を取られていたようで反応が遅れた。

「え、アア。ゲートに二人の通信記録が残ってる」
「……だって」
「ならば、大丈夫よな。サイレンを探すのは手間がかかろう。が……まあ、何とかなるだろうよ」

エクゼとの会話に割って入るようにして、

「ヒバリ、悪い知らせ……」

ジルが震えた声で小さく呟いた。
頬に冷や汗が伝っている。

「続けて」
「魔力探知したんだけど。二名の魔導師がこっちに向かってる。
 一人は魔力量が半端じゃない、もう一人も……嘘っ……両方ともAAAだよ!」
「へぇ、ゾッとしない知らせ」

ヒバリは他人事のように応える。
何ておあつらえ向きなんだろう。
主戦力のサイレン、ガンスリンガー、そしてジェミニが戦力外となった今になって。
運に見放されているのか、それとも幸運なのか。
武装局員がBランク、隊長クラスでAランクである。
精鋭がそろっている事で有名な時空管理局でさえAAAランク以上の力を持つ魔導師は全体の五%に過ぎなかった。
そのほとんどが指揮官クラスであり、ミッドチルダ人といえど普通に生活する分には、まず出会う事無い人種といえよう。
ヒバリが思いついたのはプレシア・テスタロッサぐらいである。
何度か会った事があるものの、それは切った張ったの状況ではない。
全て祖父に連れられての対面だった。

「それにしても」

ヒバリはアリスの手から離れ、一人で地面に立った。
回復しきっていないのか、足がふらついている。

「闖入者《ちんにゅうしゃ》にいきなり精鋭をぶつけてくるのかな。
ロストロギア関係ならいざ知らず、違法傀儡兵にそこまでの戦力が必要なのかな」
「察するに現地の嘱託魔導師かと」
「もしかして、わたしって途方もなく、くじ運が悪いのかな?」

ヒバリの問いかけにアリスが首を振る。
否定ではなく、返答しかねるといった風情だった。
とはいえ今さら確認するまでもない。
親子三代揃いも揃って運気のベクトルがマイナス方向になっているのである。
例え変位したとしても九十度まで、どちらも虚数の領域になってしまう。
つまり運気は好転しない、ということだ。

「状況開始」

ヒバリは上空を駆ける二人の魔導師に向けて言い放った。
直後、彼女の身体は淡い青色の光に包まれていた。













三ヶ月ぶりになるのでしょうか。第二話『strayer』をお届けしました。

いきなりヒバリのデバイスが喋っていますが、S2Uと同様の簡易応答プログラムが組み込まれているためです。
彼女自身はインテリジェント・デバイスを扱えるほど魔力量に恵まれていませんし、器用でもありません。

便宜上インテリジェント・デバイスの発言を強調表示にしました。
リアクターとライプニッツの違いを明確にするためのものです。

次回も楽しみにして頂けたら幸いです。



二〇〇六年六月十二日 流鳴

拍手[0回]

PR
Name
Title
Text Color
URL
Comment
Password
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Trackback URL
Powered by ニンジャブログ  Designed by ピンキー・ローン・ピッグ
忍者ブログ / [PR]