忍者ブログ
infoseekの本サイト消滅につき旧作品が行方不明に…… 横浜みなとみらいを徘徊する記録
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2024/09/20 (Fri)
魔法少女リリカルなのはA's After Story

――Puppet Manipulator――

5. 『defeat』

 戦いが続いている。
 アリスはフェイトの執拗な攻撃の中で、常に能力の限界を試されていた。
 たったひとつの判断違いが破壊を招く綱渡りの状況にあったのである。
 空を、激しい爆発音が轟き渡る。
 そしてザァーッとぬめった液体がアリスの体を濡らし、その雫が装甲に当って跳ね落ちていく。
 小さな破裂音が断続的に起こった。とっさに上を見やると、両脚を失い黒煙を上げるエクゼの姿があった。
 胸には大きな裂傷。
 傀儡兵の心臓である疑似リンカーコアが剥き出しになっている。

(退けっ。早く!)

 念話を介して声を張り上げていた。
 伝わったのか確かめる間もなく、追尾弾を振り切ろうとしているフェイトに砲撃を加えようとしたが、途中で手を止めてしまった。
 圧搾魔力の充填を始めたばかりだった。
 砲撃可能となったときには、なにもかもが手遅れとなっているだろう。
 追尾弾を全て叩き落としたフェイトがエクゼの正面に踊り出た。バルディッシュを振るい、その脇を駆け抜ける。
 左肩から右脇腹にかけて一本の線が走った。
 続いて上体が線に沿ってずり落ち、魔力の輝きが消えて腕がダラリと垂れ下がる。
 両断されたコアから魔力が放散し、潤滑油が血潮のようにほとばしった。重力のなすがままに落下し、爆散した。
 
 その様子を呆然と見つめていたアリスの脳裏に、脇腹に烈風が叩きつけられる光景が過ぎった。
 フェイトの接近を許していたのである。
 反射的に槍を繰り出し、すんでのところで一撃を受け止めた。
 異なる色の光がせめぎ合って、白く輝いたかと思えば、急に闇へと傾く。
 フェイトが消えたのだ。アリスの探知機《センサー》から姿を消していた。
 闇に紛れ込んだか――。
 濃厚な赤が夜空を漂う。アリスは退きながら彼女の姿を探していた。
 突然の警告に危機感が全身を駆け抜けた。
 真上と真下。二つの反応が同時に現れ、挟み撃ちとばかりに急接近してくる。
 金色の光が走った。
 反応が大きい下方にあたりをつける。光の中心に黒い影も見えた。
 狙いを定めようとランドスピアを下へ向ける。
 完全に魔力が供給されぬまま砲撃する。
 血液を連想させる強い赤。
 十分な出力が得られていないとはいえ、一条の光がフェイトの体を飲みこみ、地面に突き刺さった。
 上の光が急に速度を緩める。そのまま失速して消えるものと思った。
 しかし探知機の反応は変わらず。手応えもない。

「逃した? いや……」

 脇から凄まじい重圧が押し寄せてきた。
 魔法弾だと知る前に、身体が動いていた。
 切り裂かれた光刃が形を失って魔力が散り散りとなり、次いでまばゆい光を発して視界を覆った。
 びゅっ――と微かに風を鳴らしてバルディッシュが飛び出し、アリスの腹を薙ぐ。
 槍を流して受け止める。殺しきれなかった衝撃が身を揺さぶった。
 双方の魔力がせめぎ合って生まれた無数の紫電が瞬いては、消える。
 フェイトが押しに押してきた。
 一見、均衡を保っているようだが、アリスには余裕が無く、フェイトは実力の八割も出していない。
 アリスは、刃を合わせた一面に魔力を集中させ、格差を埋めようとしていた。
 しかし、所詮はごまかしに過ぎず、合数を重ねるに連れてジリ貧に陥っていったのは当然のことである。
 加えて、鍔迫り合いの状態ではせっかくの火力が使えない。
 さらに圧力が増し、じりじり後方へ押され出す。
 手数が増えるに連れて魔力壁にほころびが生じていく。

「――――はああああああああッ!!」

 止めとばかりに、フェイトは下腹に力をこめて気合いを放った。
 刃が激しくぶつかり合い、白い火花が飛んだと思いきや鋭く金属が咬み合う音がした。
 同時にバルディッシュが視界から消え、支えを失い、半ばから折れた槍が惰性のまま空を跳ね飛んでいた。
 一瞬だけ、思考に空白期間が生まれた。
 その間、フェイトが残した魔力の軌跡を目で追っていたに過ぎない。
 耳元で警告音が鳴り響き、身をよじった――次の瞬間。
 左肩の装甲が砕かれ、えぐり取られる。
 肩から下の、ちょうど神経と同じ働きをしていたパイプラインが断裂し、噴きだした魔力が大気に触れて圧縮されていた膨張し、急速に気化していった。
 損傷部分と反応し、爆発が繰り返される。
 攻撃を免れていた回路が破壊され、左腕の機能が失われた。
 爆煙に包まれながら遠く、フェイトの姿を見やった。

――逃げるべきだ。

 アリスは考える。状況は悪化の一途を辿っている。
 これ以上戦闘を続けても、いずれエクゼと同じ運命をたどるだろう。
 魔力が噴きだし、大気に触れて膨張し急速に気化していく。
 損傷部分に生じた紫電に触れ、爆発が重なった。
 アリスはバルディッシュの出力に対抗するため、刃を交わす一面に魔力を集中させていた。
 惰性のまま振り抜かれたランドスピアの側面は脆く、刃を受け止められるほど魔力がのっていなかった。
 結果としてランドスピアは無惨に折れ、肩の一部をえぐり取られてしまった。
 損傷が激しく、とても戦えない。
 空から爆煙が流れ去ったとき、アリスの姿はどこにもなかった。







 ヒバリの身体が、踏みとどまることなく押し流されていく。
 ジルの眼前を光の奔流が通り過ぎた。

「ああっ!」

 呆然と立ちつくし、悲鳴じみた叫びをあげながら最悪の考えが頭を過ぎる。
 されるがままに地面を転がったきり、まったく動かない体。
 装甲から白煙が立ちのぼっている。
 至近距離からの砲撃魔法が直撃したのだ。無事であるはずがない。
 レイジングハートが魔力の残滓を排出する。蒸気がなのはの周囲にうっすらと浮かんで、次第に消えていった。
 なのははヒバリの元へ駆け寄ろうとしたジルを見るなり、レイジングハートの射程に彼女を捉えていた。
 ジルの頭はヒバリの安否でいっぱいになっていた。
 魔導師としての自分を忘れ、戦闘中であることを忘れた。
 泥水が跳ねた。水たまりなどものともせず一目散に駆け出そうとしたが、突然に思考に割り込んできた声に驚いて立ちつくした。

「Halt!」

 ライプニッツが発したのだと気づくまでに数秒の時間を要しながらも、ゆっくりとぎこちない動作でなのはを見やる。
 桜色の輝きと、空中に映し出されたミッドチルダ語が目に入った。
 なのはが砲撃準備を終えていたのである。

「動かないで!」
「ひっ」

 少しだけ近づいたレイジングハートを見つめて、ジルの口から短い悲鳴が漏れた。
 怯えの色が浮かんだのを見て、慌てて言葉を選び直す。

「ご、ごめん。怖がらせるつもりはなかったんだ。わたしは高町なのは。時空管理局の嘱託魔導師だよ」

 ジルの瞳には一握りの敵意が浮かんでいた。たった五つしかない世界の一角が壊されてしまったせいだ。

「管理局の依頼でヒバリ・ファティマ・ガトリング、ジル・オートマンを保護するために来ました。ええっと、ジル……ちゃんでいいのかな。デバイスをしまって、わたしと一緒に管理局に行こう。そうしたらお父さんとお母さんに会わせてあげられるから」
「……本当?」

 ジルが小さな声で答えていた。
 深く頷いてみせるなのはをじっと見つめてから、ヒバリを指し、続いて劣勢にある傀儡兵たちを指差した。

「一緒じゃなきゃいやだ」

 真剣な声に、なのはは曖昧な笑顔を浮かべた。傀儡兵に対して破壊命令が下っていたからである。
 違法傀儡兵。
 P.T事件解決後あたりから辺境に出動していた武装隊が、見慣れない傀儡兵との戦闘に陥ったという報告が数件なされていた。
 負傷者が出ているため、危険と判断した管理局は、破壊したのち残骸を回収し調査するつもりだった。
 出動前のミーティングで調査班が派遣されたことを伝え聞いていた。
 上空では傀儡兵から射出された追尾弾が、空に白い軌跡を残しながら猛追を始めていた。
 臙脂色の傀儡兵の砲撃をかわし、アクロバット飛行をやってのけたフェイトが金色の刃を上段から振りおろした。
 破裂音が生じ、ジルが空を見やってエクゼを視界に収めた直後。
 エクゼの上半身が袈裟に斬り落とされた。
 鶏をしめるように、血の代りに油と魔力を噴出しながら落下していく。
 そしてもう一度爆発が起こった。

「あっ――」

 なのはとジルの声が重なった。嘆息まじりの声。一方は悲壮な声。
 金色の刃を構えた武神の如き姿。
 ジルにしてみれば子供の皮をかぶった悪鬼羅刹の類でしかなかった。
 間髪入れず、アリスに襲い掛ったフェイトから目を逸らした。
 アリスが同じ運命を辿るのは明らかだった。
 壊される。殺される。
 傀儡兵たちと共に傷つけ、命を奪った無数の虫たちと同じように。
 今ならジルは助かる。偶然相手がヒトだったからだ。
 機工服を身に着けたままのヒバリは、エクゼと同じように身を焼かれ、砕かれて死に至る。
 今も――。

 突然、教壇に立つベネジェットの姿が脳裏を過ぎった。
 生徒はヒバリの他に数名いて、関係のないジル自身は頬杖をつきながら説明を聞いていた。
 ホワイトボードに図式を描いて特殊なデバイスについての講義――。
 融合型や装着型デバイスには必ず安全装置が取り付けられている。
 生命の危険に瀕したとき、デバイスは魔導師の生命維持を最優先とし、デバイスへの魔力供給を最低レベルに抑えながら回復を助ける。
 必要ならば除装も辞さない。
 ヒバリの身を包む機工服は防護服に比べて遙かに強固だが、あくまでAランク程度までの殺傷性攻撃を想定したものに過ぎなかった。
 それ以上の攻撃を耐えうるにはさらなる装甲を必要とし、巨大化し機動力を犠牲にしなければならない。
 その最たる例が砲撃兵だ。
 トーチカと言って差し支えない傀儡兵が存在するくらいである。
 ライプニッツを握る手に力がこもる。
 まだ可能性が残されていた。
 リアクターは生命の脅威となる攻撃を受けたとき、己の身体が砕け散ろうとヒバリの命を守るよう設定されている。
 本来ならば傀儡の装甲が砕け散っていなければならない。
 現実は傀儡の姿を維持したままだ。非殺傷設定で攻撃されない限り、このような状態にはならない。
 ジルは怯えを忘れ、瞳に希望の光を灯した。
 心に余裕が生まれる。
 銃口が向けられていることを忘れてしまうほどに

「Fiddle-de-dee!《ばかばかしい!》」

 突然、ライプニッツが声を荒げた。
 いかにも魔法杖な姿形をしたレイジングハートを羨望の目で見ていたことに気づいたのである。
 灰色のステッキという単純な形をしたライプニッツは、装飾を嫌う性向を持っていた。

「Only functional beauty is all《機能美こそが大事》. Don't need to deck out.《めかし込む必要など無い》」
「わかった。わかったから」
「……」

 ライプニッツはすねているらしい。
 いつもの抑揚の無い声音に戻るのを待ってから念話を行う。

「ライプニッツ、気は治まった?」
「Yes.」
「ヒバリの状態が知りたいの。まだ、かれが生きてたら叩き起こして」
「Yes, My master.」

 ライプニッツを介して意識の接続を試みる。
 リアクターが生きていれば、電気ショックでも何でもして無理矢理起こすことができるはずだった。
 今、一番恐れるべきは時空管理局に身柄を拘束されること。
 すなわちベネジェットたちの研究開発が頓挫することになる。
 俯きながらリアクターからの何度目かの情報取得を試みていた。

――接続。
――応答無し。
――再試行――八回目。
――応答無し……。
――十五回目。
――応答――――操り人形《リアクター》――――再起動確認。

 淡い青の燐光。ヒバリが起きるより早くリアクターが活動を再開した。

「Rcactor confirmed《リアクター確認》.」

 ライプニッツが押殺した声で告げた。
 そのとき周囲を覆った結界に激しい力が加えられた。
 弾性によって結界全体に衝撃が分散され、天蓋が衝撃を加えた人物の魔力固有色にうっすらと染まったが、すぐ元に戻った。
 そうかと思えば、金色、透明、と何度も瞬く。
 魔法射出に伴う轟音がジルの肩を震わせた。
 もう一人の魔導師――フェイト・T・ハラオウン――が結界をたたき壊そうとしていることは明白だった。
 結界が保たない。
 麦わら帽子を目深にかぶり直して、焦りの色を隠した。
 ジルの結界は、バリアブレイクなど割り込み干渉する魔法に対して強固に作られている。
 展開された五層のうち、内外の表層は弾性に富み、一段下の第二、第四層が最も硬く、第三層は膨大な量の対結界魔法対策プログラムが仕掛けられている。
 通常の破壊魔法ならば第三層に至った段階で形を為さなくなる。
 強力な砲撃魔法でも威力を削がれて第二、第四層で止まる。
 しかし、フェイトは一点に膨大な魔力を叩きつけていた。
 強力すぎる干渉に修復機能が追いつかないのである。

「もうすぐ結界が破れる。そうしたら、二対一になる」
「……わ」

 思わず、わかった、と言いそうになる。幸いぎりぎりのところで呑み込むことに成功したが、脂汗がどっと吹きだしていた。
 管理局に保護を求められたら、どんなに良いことか。
 ジル・オートマンは管理局を厄介になりたくない相手、できれば関わりになりたくない相手として認識していた。彼女が言うことを聞くべき人間は両手で数えられた。
 両親やヒバリ、ベネジェット、そして先生。
 高町なのはの言うことを聞いてはいけない。武器を向けてくるなら尚更だ。

「傷つけたくないから。ね、おとなしくこっちにきて」

 なのはが、なだめるように言った。
 頭上からガラス片を踏みにじったような音。結界に大きな亀裂が入った。

――これで最後。

 と、声が聞えた。
 フェイトはバルディッシュを大きく振りかぶる。その最中、カートリッジが装填され、光刃の輝きが増していった。
 視界を覆い尽くす巨大な刃。畏怖を感じるほどの魔力。
 ジルはあきらめたのか、ゆっくり腕を振って、放り投げようとした。
 しかし、杖を放そうとはせず、そのまま頭上にかかげてバルディッシュが振りおろされる瞬間を待っていた。
 結界を破壊し尽くそうとする大きな力を感じる。
 あふれ出る光を真っ正面から見据えて、腹の底から叫んでいた。

「シュリンケイジ、収縮確定!」
「Complete.Shrink-cage.」

 突然、内側へ収縮する結界。なのはを中心にして小さく、狭まっていく。
 バルディッシュは風を切っただけだった。
 勢い余ったフェイトが姿勢を崩した。
 空転しながら、魔法の籠に囚われたなのはに目が行ってしまう。
 その隙を幸いとして、ジルがヒバリのもとへ駆け寄った。
 逃げよう。その一心で、全速力で走った。
 地面に降り立ったフェイトが強く踏み出すと、つむじ風が湧き起こり、周囲の木の葉を舞いあげた。

「逃がさないっ……」
「絶対に、いやだ!」

 詰みの一手を拒む声が、風の中にかき消えていく。







備考





シュリンケイジ《Shrink cage》
使用者:ジル・オートマン
結界魔法をバインド系に応用した魔法。
展開済みの結界を縮小させて対象を捕獲する。
もしくは、対象の周囲に魔法の籠を生成して足止めを行う。





今回のdefeatは敗北の意味。

前回から……時間かかりすぎですね。



次回のサブタイトルは『rout』になる予定。

二〇〇六年十二月二四日 流鳴

拍手[0回]

PR
Name
Title
Text Color
URL
Comment
Password
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Trackback URL
Powered by ニンジャブログ  Designed by ピンキー・ローン・ピッグ
忍者ブログ / [PR]